第10話 雨は恋人

 私は、川。

 太古から、うねうねと大地を流れてきた。


 三百年前。

 治水だ、と、人間が、私の形をゆがめた。

 真っすぐに流れるのがいいと、堤防まで作って。


 型にはめないで。窮屈なのはイヤ。

 私は自由が、何よりも好きなの。


 恋人の雨に、私は訴えた。


 助けて、息が苦しい。

 あなたの力で、なんとかしてちょうだい。


 ごめんね。僕には、何の力もない。


 さめざめと泣く、雨。

 梅雨時のあなたは、やさしすぎる。

 台風の時は力強いけど、すぐに過ぎ去ってしまう。


 人間は、私のいた場所に、畑を作った。家まで建てた。


 勝手なこと、しないで。そこは私のものよ。

 私は、元に戻りたいの。

 きっと、きっと戻ってみせる。



 じりじりする三百年が過ぎた。

 私が、私らしくよみがえる時が、ついに来た。


 三日も四日も、激しい愛を注ぎかける、雨。

 私は、元の姿に戻った。

 堤防を乗り越え、のびのびと。

 滝よりも奔放に、大地を駆ける。

 大蛇のように、のたうちまわる。



 ありがとう、雨。なんて強いの。


 痛いほどの愛撫が、天から突き刺さる。


 愛してるよ、川。


 私もよ、雨。

 私たちの愛は、永遠。



 ぞれにしても、人間って、不思議。

 毎年、こんな雨が続くのに、数十年に一度、と言い張るのだから。

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