第9話 日本のどこかで・トマト

 昭和二十年、八月十五日。日本は無条件降伏しました。

 戦争が終わって、めでたしめでたし、ではありません。多くの子供たちが、親を失い、路頭に迷いました。

 何の援助もなく、ガード下で身を寄せ合って生きていく。子供ホームレスです。「浮浪児」と呼ばれていました。


 そんな暮らしを生き抜いた男性の告白も、胸が痛かったです。

 生きるために、仲間と共に、畑に行きました。もちろん他人の畑です。トマトを盗んだら、畑の主がトラックで追いかけてきて、仲間を撥ねました。

 仲間は、トマトを抱いて絶命していた。

 それ以来、彼は、トマトを口にできなくなったと言います。仲間の死に顔が目の前にちらつくのでしょうね。


 もちろん、盗みはいけないことだし、畑の主は、何度も盗難にあって激怒していたのかもしれません。だからといって、子供をトラックでひき殺すなんて。


 この話をしてくれた男性は、苦学して、その後、教師になりました。でも、世の中を恨んだまま、命を閉じた元浮浪児もいたようです。


【あとがき】

 いつも、読んでくださってありがとうございます。

 7,8.9話は、このような形になり、戸惑った方もおられるかもしれませんね。

 どれも、ラジオ深夜便の、インタビューで聞きました、戦後七十年の頃だったかと思います。

 三つの話、胸に重く残り、誰かに伝えたいけれど、誰に話すべきか。

 当時は、書くことを再開するとは思いもしなかったので、今、なんとか伝えることができそうで。ほっとしています。


 私たちは、戦争を知りませんが、想像することはできますね、こうした体験談に接することで。

 戦争は、いちばん弱い存在を脅かすことが、よくわかる話ばかりです。平和なはずの日本で、いじめや虐待で苦しむ子供が多いことが恐ろしいです。


 次回からは、また昔話や、創作ホラーに戻ります。引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

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