第6話  墓場が好き

 子供の頃から、墓場好きだった、ような気がする。

 八歳の夏、近所の子たちと墓場に肝試しに。怖いことは何もなく、目の前を、青白い、少し緑がかった光が過ぎていった、その美に未了された。たった一度のホタル体験。もう二度と見なくていいくらいの感激で、だから墓場が好きになったのか。静かで落ち着く場所だし。


 学生時代。京都に住んでいたが、奈良にも行きやすい場所で、たまに遊びに行っていた。

 春のある日、奈良じゅうの霊が集まっていると言われる地域に足を踏み入れた。

 誰ぞを呪詛した井上内親王の生首が、投げこまれたという井戸。近づいただけで、背筋が寒くなる。他にも、いわくつきの場所があり、その中心に元興寺。蘇我馬子が建立した、らしい。


 威風堂々の大伽藍、門をくぐると、左手に、濃い桃色の八重桜が満開で、いかにも、根元に死体がうまっていそうな。

 右手には、墓石のひな壇、があった。

 ひな壇。としか言いようがない。墓石が、横長の台座にずらりと並び、それが、七段くらいはあったように記憶している。


 大規模な墓地の移転があって、墓石を供養しているのか、由来は不明ながら、とにかく、壮観だった。細長いスリムな墓石ばかりで、怖い感じは全くない。

 しっかりしだ台座は、一mはあっただろう。

 何気なく裏に回ると、真ん中へんに、四角い穴が、ぽっかりと口を開けている。


 覗き込んで、ぞっとした。

 割れて欠けた墓石の残骸が、びっしりと詰め込まれていた。

 墓石の、墓場。

 台座の上の、お行儀のいい墓石たちとは、まるで違う。怨念のようなものを感じて、私は逃げ帰った。

 以来、私の墓場好き、は、過去形になった。

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