第7話  沖縄・川を渡った少女

 昭和二十年、六月。

 日本で唯一、戦場となった沖縄では、米軍によって多くの市民が犠牲になっていきました。県民の四人に一人が亡くなった、といわれています。


 その少女は、八歳。肉親と離れ離れになり、一人で逃げていました。

 迫りくる、米軍。目の前の大きな川を、渡らねば命はない。

 しかし、橋がかかっていないのです。どうするか。


 少女は、川に飛び込みました。そして、目の前にあった死体の、ズボンをつかみました。前に進んで、シャツに手を伸ばす。さらに、次の人の衣服に、手を。

 川には、多数の死体が浮いていたのでした。

 こうして少女は無事に川を渡り、安全な場所に逃げることができました。


 遺体の衣服を頼りに、川を渡る。

 恐ろしい話です。でも、少女は怖さを感じる余裕があったのでしょうか。

 私も、この話を聞いた当初は怖かったけど、今は違う考えです。

 川で亡くなった人たちが、少女の命を救った。この悲劇を後の世に伝えてくれという、死者たちのメッセージではないのかと。


 たまたま、私は、この話を耳にした。

 数年前の夏のことで、今は、この当時八歳のj女性が、ご存命かどうかも不明です。

 ただ、聞いてしまった以上、伝えていかなければいけないのでは。

「命をたいせつに」なんて、ぺらっとした、何の

 説得力もない言葉より、こうした実話を伝えていくほうが、よほど胸に迫る気がするのです。


【あとがき】

 どうしてもお伝えしたい実話が、三つあります。

 あの戦争で、過酷な運命をたどった少年少女たちの。

 変則ではありますが、後二つ、読んでいただければ幸いです。

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