第21話 9.11
アメリカの同時多発テロから、もう20年になる。
WTCに突っ込む二機の映像は、今も忘れられない。
当時、私はマルタ共和国への旅を控えていた。
出発は10月上旬。マルタ騎士団にあこがれていた私にぴったりのツアーが見つかり、勇んで申し込んだ。
マルタは元イギリス領だから、テロリストにとっては敵対国。危険度は高いのかもしれない。
だからといって、キャンセルする気は毛頭なかった。夢の国マルタに、やっと行けるのだ。たとえ何かあっても悔いはない。できれば、凶事は復路で起こってほしいと願いはしたが。復路ならば、旅の記憶を胸に散っていける。
旅サイトでは、この時期に海外に行くべきか否か、様々な意見が飛び交っていた。
周囲に反対されて断念する人。
迷っている人。
気にせず、予定通りに行く人。
私が共感したのは、「たとえ自宅の押し入れに隠れていても死ぬときは死ぬ」というもの。自宅にトラックが突っ込んできて、押し入れの中にいたばかりに落命する危険性はゼロではない。
出発当日。成田で、3組のキャンセルが出たと聞かされた。逆に言うと、それ以外の予約客は参加したのだ。
ミラノまではアリタリア航空。機内食には金属のナイフ、フォークが使われていた。一泊して翌日、マルタへ。あこがれのマルタ航空に搭乗出来て感激した。
マルタでは、素晴らしい3日間を満喫した。ハイシーズンを過ぎていたため、そこそこ高級なホテルに連泊し、観光地を見て回る。騎士団ゆかりの地にいる喜びでいっぱいだった。
10月とは思えぬ日差しの強さ。帽子代わりにスカーフを被ったが、時期が時期だけに、スカーフ姿は気が引ける。「私はイスラム教徒ではありません」と弁解したい気分だった。もちろん、テロを起こすのは過激派の一部で、ほとんどのイスラム教徒は平和を愛する人々なのだが。
帰国便では、機内食のナイフ類はプラスチック製に変わっていた。事件の影響は、その程度だった。
コロナは一段落、海外旅行も、そろそろ解禁されるかもしれない。
恐怖とは、なんだろう。
見えない何かが旅を阻害する。テロとウィルス、全く別ものだけど、必要以上に恐れて、大切なものを見失うのはもったいない。
マルタ、あるいはイタリア再訪、私もそろそろ考え始めている。
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