法螺、ホラー、ついでに昔話
チェシャ猫亭
第1話 山田のカミサマ
母は、困りごとがあると、山田のカミサマに相談に行っていた。
カミサマというのは、うちの田舎で、霊能者を指す言葉なのだろう。その方が、山田という姓だから、母の場合は、たまたま「山田のカミサマ」。
一度だけ、母に連れられ、カミサマのご自宅を訪問したが、ありふれた民家で、カミサマご本人も、いたって普通の中年女性に見えた。
母が若い頃、看護師学校の合格通知がなかなか届かず、カミサマに伺ったところ、
「郵便屋さんが、届けているところだ」
と言われ、帰宅したら、確かに合格通知が届いていたそうだ。以来、母はカミサマに絶対の信頼を置くようになった。
弟の高校受験、当日。
地方紙の夕刊に、受験風景の写真が載り、なんと弟や同じ中学の男子三名が大きく写っていた。そして、全員、不合格。その年に限って競争率が異様に高く、多くの不合格者が出てしまったのだ。
当然、母は、カミサマに会いに行った。
「あんたの家は、
開口一番、そう言われたと聞き、私もカミサマを信じる気になれた。
当時、住んでいた家は。私が通った幼稚園の向かいの、雑木林を切り開いて建てられたもの。幼稚園児だった私は、そこの竹から笹をいただき、七夕行事に使った、そのことを、鮮明に覚えていた。
カミサマは、そんな家の過去も見通せたのだろう。
その獣道を通っていた狐の霊が、ある木に宿った。が、切り倒され、株を処理せずに家を建てた。自分の上に家を建てられ、狐は怒っている。
弟の頭がもやもやし、受験に失敗したのだ、というのが、カミサマの結論だった。
では、どうすればいいのか。
稲荷神社の、この地方の総本山に、以下を奉納する。
一日一円として、一年分の現金、三六五円。
野菜と果物、各、数種類ずつ。
ごはん茶碗に山盛りの白米。
白米のてっぺんがへこめば、お狐さまの許しが出る。
翌年、弟は、ワンランク上の高校に合格した。
お狐さまの、お許しが、出たのだろうか。
同じころ、やはり地方紙に、ある村で、息子に狐が憑いた、として、母親が息子を殺したという記事が載った。稲荷総本山がある村近辺での事件だったと記憶している。
半世紀前。田舎では、まだまだ狐の力が強かったらしい。
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