第2話 フィレンツェの「内臓美人」

 一九九九年、ノストラダムスの大予言、の真否が問われた年。

 突如、ルネサンス美術への関心が高まり、イタリアへ行きたくなりました。

 まずは美の宝庫、古都フィレンツェに。夏の終わり、いよいよ初のイタリア一人旅が実現。


 フィレンツェに行くにあたって、これだけは絶対見たい、がありました。


 ラ・スぺコラの「内臓美人」


 友人が、「彼女(解剖されたヴィーナス、の別名あり)」の写真集を見せてくれて存在を知りました。ちなみに「内臓美人」は、友人のネーミング。

 内臓、解剖、という言葉でピンときたでしょうか。そう、蝋人形の彼女は、腹かっさばかれて、内臓がぶわーっと噴き出しているのです。


 解剖模型というと、各臓器が、ちんまりと大人しく体内に収まっているイメージですが。この場合、暴れ内臓というか、引きずり出して空気入れて膨らませたんか、と言いたくなる、とにかく爆発的にあふれ出しています。そんな状態なのに、お顔は、ヴィーナスと言われるだけあって、「春」の女神そっくりで、小さく開いた口はキスを待っているような。はっきり言って、「事後」の顔。恍惚の表情なのです。


 亜麻色の髪は、本物の頭髪で、妙に生々しい。わりあい小柄で、ガラスケースに収まっています。木枠には日本語で「もたれ掛からないでください」と表示があります。日本人の客が多いらしい。「掛」という漢字が、何故か印象的でした。


 男性の模型もありましたが、ただ一皮むいただけ、の筋肉標本で、色気も何もありません。女性にのみ、異様な内臓への執着があると感じました。ヴィーナスのほかにも、内臓美人はいましたが、ショックの大きさが違いました。


 展示は他にもいろいろあり、ペストのジオラマ、なんてのも。

 農家の中に、いま死んだばかりのフレッシュな死体から、緑色に膨れあがったベテラン死体まで、一家全滅の様子が、これまた蝋人形で再現。サイズがかなり小さいので、さほどショックはありませんが。


 それにしても、内臓美人にせよ、ペストのジオラマにせよ。誰が、どんな目的で作った、あるいは作らせたのか。

 どこぞの金余りの好事家が、完成したそれらを、舌舐めずりしながら眺める図を想像すると、背筋がぞっとします。まったくもって人の心は恐ろしい。


「ラ・スペコラ」で検索すると、いろいろ出てきます。中には、画像を多数、アップされている方も。これからの季節、あれこれ眺めて、涼んでくださいませ、おすすめです。

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