第24話  眠り姫

 全身に衝撃が走った。

 意識を失いかけた瞬間、彼女は夢を見た。


 だいじょうぶ、あなたは死ぬのではありません。

 100年の眠りにつくだけなのですよ。


 暗闇の中で、やさしい声がささやいた。




 鳥が鳴いている、愛らしい声で。

 彼女は、うっすらと目を開けた、いや、開けようとした。

 カーテン越しの日差しがまぶしい。ずっと暗闇の世界にいたからか。

 ぼんやりと見えるのは、真っ白い天井。

 ここはどこ?

 夢の中の声は、あなたは100年眠るだけ、と言っていた。そんなに長い年月がたったのだろうか。

 どうしても眠り姫を連想してしまう。

 魔女と戦って勝利した王子が、キスで姫を目覚めさせるのだ。


 王子さまは、見あたらない。

 首を動かすことができず、左右に視線を動かすだけ。

 なぜ動けないのだろう、と彼女は不安になる。

 右手は、ぴくりともしない。

 左手が、少しだけ動かせた。目の上にかざした手は、はっきりとは見えないが、枯れ枝のように細く、しわだらけだ。

 頬に手を当てると、かさついているし、頬にもハリがない。

 ウソ、なんで? 私は16歳なのよ。

 ふるえる指で髪をつまんで目の上にもっていく。

 真っ白な髪。

 叫ぼうとしたが、声は出なかった。



 看護師たちが、ひそひそ話をしている。

「特別室の患者さん、亡くなったんだって」

「えっ、あの、100年前に入院したっていう」

「100年眠ったって、本当なの?」

 別の看護師が話に割り込んできた。

「本当らしいよ。ご家族は、その時の事故で亡くなって、他に身よりもなかったんだって」

「100年かあ。よほど生命力が強かったんだね」

 家族の同意がとれない以上、生命維持装置を止めるわけにはいかなかった。


 ただ眠り続けて年老いて、命を終える。それを長寿と呼べるのか。

 看護師たちは疑問を抱きながらも口には出さず、それぞれの持ち場に散っていった。

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