第38話 鳥葬
朝。テレビを見ながらの食事中に、
「宇宙葬っていいよね」
姉の晴美が唐突に口にした。
「遺灰をロケットに乗せて地球の周りをまわるんだっけ、ロマンチックよねえ」
と、うっとりする。
「けっこう高いんでしょ、私は普通でいいわ」
妹の清美は、そう答えた。
ばからしいと言うと角が立つから、六十台の独身姉妹、狭いマンション内でケンカして気ますくなるのは避けたいところだ。
私は鳥葬でいい、と清美は以前から思っていた。
チベッのの風習だったか、遺体を鳥に処理してもらうのだ。
死人が出たら、僧侶たちが決められた場所に運び、いくつかに切断する。たちまち鳥がやってきてて餌にする。
鳥たちのためになるし火葬よりエコだよね。まあ、現実的には無理だけど。
それにしても、と清美は思った。先ほどからカラスの鳴き声が騒々しい。
「今日、火曜日だっけ」
姉に尋ねると、
「ううん、月曜」
と答えが返ってきた。
そうだ、今日はビン缶類の収集日だ。
火曜と土曜が普通ゴミ。ご馳走にありつけると土曜から待たされ空腹なカラスが騒ぐのだが、今朝は何故?
黒い影が窓の外を落下していく。
カラスだ、また一羽、窓を横切る。
ここはマンションんの八階、地面に何かあるのか。
清美はこわごわ窓を開けて舌を見、ヒッと息を呑んだ。
カラスたちが、何かに群がっている。
下の方に二本の脚らしいものが。
その日の夕刊に、こんな記事が載った。
朝八時頃、ビルの下で若い男性の遺体が見つかった。
土曜の夕方、近くで女性がバッグをひったくられ、犯人の男はビルづたいに逃走したが、某マンションに飛び移ろうとして足を踏み外し落下したものと思われる。奪われたバッグが傍に落ちていた。
遺体の一部が食いちぎられていた事は当然、記事では伏せられていた。
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