第13話  ありがとうメール

 一月。芳江は妹に誕生祝いのメールを送ったが、例年通り、返事はなかった。芳江の誕生日へのメールは、一度も届いたことがない。

 三月。ちょっとした手術をすることになり、保証人の名義を貸してと妹にメールしたが、やはり返信はなかった。以前、妹が手術したときに保証人になったから、お互い様と承諾、と解釈し、手術を受けた。その後、もちろん、経過はどうか、などのメールは来なかった。


 七月。恒例のお中元を妹に贈った。十日ほどしてお返しの品が届き、お礼メールをしたが、反応はなし。

 さすがに、芳江は悲しくなった。

 去年のお歳暮までは、芳江がお礼メールをすれば、気に入ってもらえてよかった、程度の返信があったのだ。


 妹は、いよいよ私と縁を切るらしい。

 もともと性格が合わない姉妹だ。母の介護のことでもめ、母の死後も、しこりは残ったまま。それでも盆暮れのやり取りくらいは、と続けてきた。

 電話で話したことさえ、最後は何年前だったか覚えがない。


 この先、老いが進めば、妹に頼りたくなるだろう、お中元お歳暮は、と思ってきたが、この冷たい反応からして、覚悟を決めたほうがよさそうだ。

 もう妹を当てにはしない。何があっても一人で生きていけるよう覚悟を決めなければ。

 そうだ、妹がいると思うからいけないのだ。死んだと思えば頼ることもできない。

 発想の転換だ。妹は、とっくに他界した。もうこの世にはいない。


 そうはいっても、芳江は今年もお歳暮を贈るつもりだ。あんたの嫌いな姉さんは、どっこい生きてるよ、とアピールするためにも。

 今度こそ、お返しはないかもしれない。だが、もし何か届いたら、こんなメールを打とうと、芳江は思っている。


 届きました、ありがとう。

 悪いわねえ、気を使わせちゃって、

 あなたはもう死んでいるのに。


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