第16話 ストライキ

 シドニーオリンピックの頃、イタリア個人旅行に出かけた。ミラノ、トリエステ、ヴェネツィア。楽しみにしていたが、出発の三日前。

 アリタリア航空が当日、ストをすることになり、私の搭乗便は八時間、遅れるという。夕刻到着が、午前一時に!

 旅行、やめようかとふてくされたが、格安航空券なので、キャンセルしても料金は戻らない。出発するしかなかった。


 ミラノの空港に着くと、当然、人影はなく、市内へのバスもないから、空港で夜明かしするつもりだった。ホテルはキャンセルしてしまったし。

 が、中央駅までバスが出ることになり、駅で夜明したほうが朝、行動しやすいし、と乗ってしまった。中央駅は夜通し、開いていると「地球の歩き方」に記載があったのだ。


 ところが、駅に着いてみたら。駅は閉鎖され、中には入れない上に、周囲にはホームレスなのか、寝ている人、多数。

 こんな所で夜明かしはできない、危険すぎる。同じバスに乗ってきた女性ふたりは、予約したホテルに迎えに来てもらうという。仕方がない、私もそのホテルに泊まろう。


 ホテル到着。なんと、満室である。

 どうする私!?

 やさしげなホテルマンは、にっこりして、同行した彼女たちの部屋はとても広い。ソファに寝せてもらったらどうか、と提案。藁をもすがる思いでお願いし、快諾してもらった。


 翌朝、おいしいエスプレッソとパンで元気を出し、宿泊代金は五万リラだったか、三千円程度で済んで助かった。

 キャリーバッグを引いて市内を散策した後、列車で空港へ。今度はトリエステまでのフライト。午後一時発だったが、まさかのオーヴァーブッキング、次の四時の便に回されてしまった。


 その後も、ちょこちょこピンチはあったが、どうにか帰国便に搭乗。疲れ果て、メンタルもぼろぼろ、機内で聞いたシューベルトに、波があふれた。

 翌朝、機内の新聞で、高橋尚子選手がマラソンで金メダル、と知り、素敵な笑顔に癒された。


 日本では、ストの話は、ほとんど聞かなくなったが、諸外国では、まだまだ盛ん。ストと聞くたびに、深夜のミラノ中央駅を思い出し、背筋がぞーっとする。

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