第26話 もういいかい


 仲良しの康太たちと、健二は今日もかくれんぼをしている。

 健二は、古寺の隣の物置に隠れた。ここはお化けが出るという噂があり、誰も近づかない。きっとみんなも、ここに隠れるはずはない、と、入ってこないだろう。

 物置の中は、ひんやりして黴臭かった。

 少しして、

「もういいかい」

 呼びかける声に、

「まあだだよ」


 二度ほど同じやりとりがあり、

「もういいよ」

 と健二は答えた。

 案の定、ここに近寄る子はいない。次々と他の子が見つかっていく中、誰かがこっちに来る気配はなかった。

 声がしなくなり、あたりはしーんとなる。

 僕を探せなくて、帰ってしまったのかな。

 さすがに不安になり外に出ようとしたが、戸が開かない。

 鍵がかかってる? いや、鍵なんかついてなかったよ。

「パパ、ママ、たすけて!」

 健二は真っ暗な物置の中で泣きじゃくり、やがて泣き疲れて眠ってしまった。



 荒れ寺の解体がようやく決まり、隣の物置も同じ運命をたどることになった。

 長いこと施錠されていて、猫などが入り込んでいる可能性はないと思うが、念のため、と康太は鍵を手にした。

 ケンちゃん、とうとう見つからなかったなあ。

 61歳になった康太は、物置を前に複雑な気持ちだ。

 高校を出て建設業に従事し、今も現役で働いている。

 53年前に行方不明になった健二は、ついに発見されなかった。

 あの日の帰りがけ、やっぱりあそこしかないよ、と物置の引き戸を細く開けて健二の名を呼んだが、応答はなかった。

 神隠し、と大人たちは噂したけど、そんなのあるわけない、と康太は思い続けてきた。しかし、ならば健二は、どこに消えてしまったのか。



 物置の戸が開き、朝の光が差し込んでくる。健二は飛び起きて出口に向かったが、

「ケンちゃん!」

 驚き顔で自分を見つめる老人に気づいて、ぎょっとした。

「おれだよ、コウタだよ」

 ウソだ! こんなおじいちゃん、コウタくんじゃない。

 ぴしゃりと戸を閉めた。

「ケンちゃん!」

 康太は再び戸を開けたが、健二の姿はなかった。中を隅々まで探したが無駄だった。

「誰もいませんよ、主任」

 大丈夫か、この人。声には、そんな疑いがにじんでいる。

 他の作業員は健二を見ておらず、中に子供がいた、という康太の言葉を頭から疑っていたのだ。


 また隠れちゃったのか、ケンちゃん。

「もういいかい」

 康太は小声で言ってみた。

 

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