概要
四十八手枕絵の絵師として捕えらえた一九はそれでも秋興行の役者絵を描く
幸吉の女房のお春は、大家が集めてくれる針仕事で忙しかった。
今夜も明かりをともして七五三の晴れ着に針を通していたが、吹き込む風もないのに燭台の明かりが消えたのを、お春は不吉に思った。
その時、雨と風の音に混じって、表の玄関の戸を叩く微かな音を、お春は聞き逃さなかった。
あわてて土間に降り立って引戸を開けると、吹き込む風雨とともに、濡れネズミの幸吉が倒れ込んだ。
「お前さん!」
お春が抱きかかえるようにして土間に引き込んだが、幸吉の息はすでに絶えていた。
【「にせ写楽枕絵奇譚(大団円)」から】
「ひとを殺そうとしておいて、半分やるから勘弁してくれだって。・・・いやだね。こうなったら、お前さんの命ごと全部いただくぜ」
酔いが醒めたのか、それまでのからかうような口ぶりをかなぐり捨てた男の顔は、地
今夜も明かりをともして七五三の晴れ着に針を通していたが、吹き込む風もないのに燭台の明かりが消えたのを、お春は不吉に思った。
その時、雨と風の音に混じって、表の玄関の戸を叩く微かな音を、お春は聞き逃さなかった。
あわてて土間に降り立って引戸を開けると、吹き込む風雨とともに、濡れネズミの幸吉が倒れ込んだ。
「お前さん!」
お春が抱きかかえるようにして土間に引き込んだが、幸吉の息はすでに絶えていた。
【「にせ写楽枕絵奇譚(大団円)」から】
「ひとを殺そうとしておいて、半分やるから勘弁してくれだって。・・・いやだね。こうなったら、お前さんの命ごと全部いただくぜ」
酔いが醒めたのか、それまでのからかうような口ぶりをかなぐり捨てた男の顔は、地