(その3)
「ああ、お前さん。いいよう。すごくいいよう」
お吉は、横から抱く清太郎の陽根を臀部の後ろから迎え入れ、感極まった声をあげた。
「清太郎、そこで、左手でお吉の胸を円を描くように優しく撫でてやってくれ。・・・そう、そう、そう、優しく、優しく」
赤ん坊をあやすように、兼助は清太郎に声をかけた。
お吉はすすり泣き、清太郎に口吸いを求めた。
「お吉、口吸いはいかん。・・・清太郎、そこで反り返って腰を突き出すんだ」
兼助が声をかけたが、お吉は聞こえないのか、臀部の豊かな肉をみずから揺すって、清太郎を太腿のさらなる奥津城へ取り込もうとする。
「ようしお吉、そのままもう少しの我慢だ。先生、ここを描いてください」
兼助が幸吉に指示を出した。
幸吉は、あわてて筆を走らせた。
しかし、それを待たずに、お吉は仰向けになって太腿を開き、くの字に曲げた足を持ち上げ、のしかかる清太郎を迎え入れた。
清太郎も平仄を合わせて、上からをぐりぐりとこすりつけたので、お吉はは両足をばたつかせ、獣じみた声をあげて白目を剥き、やがて失神した。
「やれやれ、せっかくの演出が台なしだな」
兼吉は両手を広げ、降参というかっこうをした。
清太郎は汗みずくのからだを手拭いで拭きながら、
「親爺さんよう、割り増しをもらえんかのう」
とドスの利いた声で言った。
「それに、役立たずのあんたに代って、犬っころみてえに盛りのついた妾を、毎度毎度きっちりいかせるのも骨だしな。これじゃあ、こちとらの身がもたねえ」
と凄む清太郎を横目に見て、兼助は細い肩ををすくめ、唇を咬んだまましばらく黙っていた。
「・・・たしかに上巻はそれなりに売れた。が、彫師やら摺師やらに支払うものを支払い、売るのに手間暇かけては、大した儲けはない。下巻を売るときに、上巻も摺り増す考えだ。その時は、そうだなあ、幸吉先生も入れて三人で山分けといこうじゃねえか。なんなら証文を書いてもいい」
と言って、兼助は清太郎を黙らせた。
「きっとだな」
と捨てゼリフを吐くと、清太郎は肩で風を切って妾宅を出て行った。
しどけなく横たわるお吉に着物を被せてから、兼助は幸吉を呑みに誘った。
「実を言うと、上巻は売れに売れて儲けが出た。清太郎に渡すぐらいなら、あんたと山分けだ。今度の出版の成功は、あんたの絵の力によるところが大きい。しばらくしたら売掛けが入る。そうしたら・・・」
広小路の蕎麦屋に腰を落ち着けたが、呑めない質の兼助は、舌先で盃を舐めただけで顔を真っ赤にした。
「親爺さんの考案した動く立体画法はすばらしい」
と、幸吉は兼助を素直にほめた。
「先生に、そう言われるとうれしいねえ。じつのところ、こいつがすぶる評判がいい」
兼助は声をひそめ、
「四十八手の枕絵でそれをやったのは、ちょっぴり悲しい。が、これには訳がある」
と幸吉をじっと見つめ、
「・・・俺は、もうじき死ぬ」
さらに声をひそめて言った。
「まさか」
「いや、不治の病であと数か月の命だ。それは分かっている」
兼助は遠くを見るような目をした。
たしかに、元々鶴のように痩せた兼助は、会うたびにさらに痩せ細っていく。
「枕絵本の下巻を版行したら、お吉にまとまったものを渡して死にたい」
せっかくの蕎麦に手をつけようともしない兼助の、哀れなまでに落ちくぼんだ頬の影を幸吉は見やった。
「あと残りは十手かな」
「ああ」
「急ごう。あともう少しだ」
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