第7話 コンスタンティノープル
ベネデット=ザッカリーアと分かれ、マルコの乗った船は、キオス島とレスボス島に寄った後、ついにガラタに入港した。マルコは、ピエトロ船長らとともに、大使館に向かった。
大使は、中肉中背の50がらみの、背も標準的な高さの男だった。とかく賄賂に目がないと評判だ。クルツォラの海戦が終わった直後なので暇を持て余しているのかと思いきや、大使は船長の眼をみて言った。
「ヴェネツィアの船団が黒海沿岸を荒らしまわる計画らしい。奴らめ、わしらを見習って海賊業に転向したようだ」
早く本国に帰りたいという本音が見え隠れする言い方だった。
ピエトロは質問した。
「どうして艦隊を組織して、奴らを討たないんですか」
大使は首をすぼめて答えた。
「ベネデットさんがいないのに、まとめられる訳がない」
能力もやる気もない、外交官の鑑だなと、マルコもピエトロも心の中だけで毒づいた。
ヴェネツィア本国の艦隊は壊滅状態である。海外植民地の艦隊など大した規模ではないが、まとまりの悪いジェノヴァの商人を各個撃破するには十分だ。ところが、実際には、ヴェネツィア人はもっと狡猾なことを考えていたのである。
ガラタでは、高価な布や武具など、奢侈品を積む。ギリシャ産のブドウ酒の入った壺も船底いっぱいに敷き詰める。ガレー船とはいえ、商売もするのだ。
マルコは、商品の積み込み作業が終わるまで、ガラタから湾を一跨ぎしたところにある、コンスタンティノープルに行ってみることにした。
「永遠の都」を守ってきた城壁の威容は、船からも感じることができたが、マルコは、この都がすでに2度も落ちていることを知っていた。
1度目は、1204年の第4回十字軍の時である。ヴェネツィア人が野蛮なフランス人をそそのかして起こした戦だったが、総司令官ダンドロの力量は本物で、史上初めて真正面から落としたのだった。こうしてラテン帝国ができた。
2度目は、1261年で、先帝ミカエル8世パレオロゴスが、弱体なラテン帝国の隙をついて奪還した。このおかげで、一時的ではあるが、ジェノヴァは黒海からヴェネツィアを追い出すことに成功したのである。
マルコは、コンスタンティノープルの城壁の高さや寺院の壮麗さにはさほど関心を持たなかった。それよりも、都市の規模の割には人口が少ないことと、両替したヒュペルピュロン金貨の品質の悪さが気になった。
それでも、街行く人々が、さまざまな民族から成っていることには、魅力を感じた。
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