第48話 内乱終結

 マルクスがシリストラを占領した頃、諸王トライと大王の弟サライブカの陣営は混乱の極みにあった。コムラトにいるはずのフウシン部族軍が突如、ドナウ南岸に現われたのである。トライ側の軍はまったく集まっておらず、トライとサライブカはドブロジャを南に向かい、ブルガリアのチャカのところへ逃げるしかなかった。

 トライたちが何とかシリストラまでたどり着いたと思った瞬間、彼らは城門前の土嚢の後ろから放たれた弩の一斉掃射を受け、その後、ブルガリア兵によって捕縛された。マルクスは、その場でトライとサライブカを切るよう命じた。

 マルクスはテルテル公とともに軍を率いてドブリチに行き、その後、サクチまで行って、フウシン部族長にチャカの首と、トライとサライブカの遺体を渡した。

 マルクスはテルテル公に言った。

「トクト大王は、このたびのテルテル公の働きを評価されるでしょう。皇帝に即位されれば、ドブリチの軍を使って、ザゴラやブルガスといった現在ローマ帝国が治めている地域も取り戻せるでしょう」

バルカン山脈の南北両域をブルガリア皇帝がしっかりと押さえてくれれば、黒海西岸は小麦をはじめとする農産物の輸出でさかえるだろう。

 マルクス、ジークフリート、トクテムルら300人弱の男たちは、冷たい風が吹くようになった初秋、ヴァルナに停泊中のピエトロ船長とアンドレアの船団に戻ってきた。

 カッファに戻った船団を、港の人々が出迎えた。マルクスは領事たちにあいさつしただけで、食事もとらずクリムに行き、クリミア総督ヤイラクに戦勝報告をおこなった。ヤイラクは、首都サライへ向かうよう命じた。

 マルクスは妻子のいる天幕に戻ってきた。

「ただいま」

ケペクはよちよち歩きながら、すぐにマルクスの足に絡みついてきた。アンナは、帰宅早々マルクスが申し訳なさそうな顔をしているので何事かと思ったが、マルクスが

「今度はサライに行かなければならない。ついてきてくれるかい」

と言うと、もうずっとついていくと、アンナは泣いたのだった。

 マルクスはピエトロ船長やジークフリートたちに手紙を書いた。カッファにしばらく戻れない、みなさんのおかげで、すべて上手くいった。次は、黒海西岸におけるジェノヴァ居留地の拡大を目指したい。

 1301年冬、ジークフリートと40人の傭兵は、ピエトロ船長率いるザッカリーア団の船にのってカッファを離れた。

 トクテムルの200の騎兵もまた、家族の待つ遊牧地の天幕に帰っていった。

 マルクスは馬車に乗り、家族とともにトクト大王のいる首都サライへ向かった。

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