第15話 カッファのピサ人

 その夜、マルコは、ロドリーゴとジョヴァンニに連れられて、ピサ人の料理人がいる酒場に行った。

 ロドリーゴもジョヴァンニもとても酒が強かったが、ジョヴァンニは飲んでも顔色一つ変えないのに対し、ロドリーゴは飲むと上機嫌で饒舌になるのだった。

 ロドリーゴは言った。

「領事は人の意見なぞまったく聞く耳持たない堅物だ。その領事が、君の提言には素直にしたがうと言っている。いったいどんなことを言ったんだい」

マルコは領事に、ヴェネツィア人はジェノヴァ人よりも海戦が下手なので、陸戦を仕掛けてくるのではないかと述べたと説明した。

 ロドリーゴは、

「なるほど、そんなわれわれの自尊心をくすぐるような言い方だと、あの領事も動くのか」

と感心した。

 ジョヴァンニは2人に問うた。

「ヴェネツィアのガレー船はどこに隠れているのでしょう。南だと逆風だし、だいいち隠れる所もないでしょう。そうだとすれば、アゾフ海にいると思うのですが」

 マルコは、逆に質問した。

「アゾフ海にいるジェノヴァ船から連絡はないのですか」

ジョヴァンニは、ジェノヴァ人は取引相手や寄港地などの情報を他人に知らせるのが嫌なので、領事館にも報告しないと言った。これに対して、ヴェネツィアでは、自国の船に対し、得た情報を文書にして、政府に報告する義務を課していた。

 ヴェネツィア船がアゾフ海にいるとすれば、最初の標的はケルチとなる。その後、このカッファとスダクが攻撃される可能性がある。今のうちに海岸に沿って土塁を築き、港に鉄の鎖をわたしておけば、敵も攻撃を断念せざるを得なくなるだろう。

 そんな話をしていると、小柄で太り気味の、いかにも商人然とした男が近づいてきた。

「これはロドリーゴさん。ご機嫌いかがですかな」

ロドリーゴはにこりと笑って紹介した。

「彼は一昨日カッファに来た、調査員のマルコ殿だ。紹介しよう、彼はここに長く住んでいる、商人のアンドレアだ」

マルコは丁寧にあいさつした。すると、アンドレアはにこやかに応えた。

「私はアンドレア=ダ=ピサ。ここカッファで馬商人をしています」

ロドリーコが目配せをすると、アンドレアは、ではまた後日お会いしましょうと言い残し、マルコたちから離れていった。

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