第14話 領事館

 マルコはジョヴァンニからいろいろ聴こうとしたが、儀典のエンリコが調査室に入ってきて、領事がお待ちかねですと言った。エンリコは駆け出しの外交官で、27歳と館内では最年少だが、すでに双子の父親だ。妻子は本国に残してきた。

 マルコはエンリコにしたがい、領事室に行った。

 領事は待ちかねたと言わんばかりに、マルコに昨日の話の続きをするよう求めた。マルコが、昨晩、船長やジークフリートたちに言った内容を伝えると、領事は少し顔をほころばせた。

「ヴェネツィア人が海賊となるのは難しいということだな。さて、どうすれば港を防衛できるかな」

領事は、マルコを試しているようだが、嫌な気分にはさせなかった。マルコは正直に言った。

「小生には、港を封鎖する方法がわかりません」

領事はうんうんとうなずくと、

「大きな鉄の鎖で、港の端と端を結び、敵船の侵入を拒むのだよ」

と答えた。敵の大型ガレー船が突撃しても壊れない鎖を、基本的にはどの港も持ってはいる。ただし、これを装備するのには時間がかかる。マルコは言った。

「鎖の準備は早い方がいいと思います。領事がおっしゃったとおり、敵船は隠れていて、カッファに停泊している船の数がある程度減ったところで襲撃してくるでしょう」

領事は、後日マルコの歓迎会をしようと言い、マルコを下がらせた。その直後に、駐在武官の3名が領事室に入っていった。

 マルコが調査室に戻ると、ジョヴァンニは、カッファに着いたばかりなのに忙しいですね、と声をかけた。マルコは、自分の父が塩漬けの魚の作り方を研究していると言うと、

「タラですか、チョウザメですか、それともコイですか」

とジョヴァンニは聞いてきた。マルコは恥ずかしそうに、何の魚かはわからないと答えた。

 そんなたわいもない会話をしていると、やはり館員の一人が部屋に入ってきた。

「私の名はロドリーゴ。陸軍出身だ」

と名乗った。背は高くないが、がっしりとした体格で、肌と髪がよく日焼けしている。年齢は分かりにくく、若そうに見えるが、35歳は越えているだろう。

マルコは丁寧にあいさつを返した。すると、ロドリーゴは言った。

「あの難しい領事殿が、君のことをいたくお気に入りだ。どうやって心を掴んだのか、今晩飲みながら教えてくれ」

 駐在武官の役割は、領事の護衛、他国の武官との交流・折衝などがあるが、ロドリーゴは情報収集の担当、つまり、スパイだった。

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