第18話 アンドレア=ダ=ピサ
ジョヴァンニは、奴隷市場について教えてくれた。
「奴隷がたくさん入ってくる時は、非常に安い値段で取り引きされます。1人銀貨1枚で投げ売りされることもあります。が、一般の人はせりに参加できません。いわば小売の奴隷商人から買うことになります。ノガイは西方で得たスラブ人の奴隷を、このカッファの市場に供給しています。これに対して、普段取り引きされるコマン人の奴隷は貴重で、とても高額で、ほとんどは少年少女です。でも時々、身売りしたコマン人やタルタル人も含まれます。男は騎兵として輸出され、女は美人であればやはりコンスタンティノープルやアレキサンドリア、フィレンツェやミラノなどにも送られ、そうでなければ、地元の売春宿で使われます」
開けっ放しの扉から、ロドリーゴが入ってきた。
「先週会ったアンドレアというピサ人がいただろう。彼は奴隷商人でもあるんだよ。」
ロドリーゴはそう言うと、今度はアンドレアと一緒に飲みに行こうと誘った。ジョヴァンニは、今回は遠慮すると言った。
3日後、少し早めにマルコとロドリーゴは領事館を出て、領事館と領事公邸の中間の坂の上にある、大きな酒場兼宿屋に向かった。この酒場もピサ人が経営していた。もともとあるジェノヴァ人が持っていたそが、地元のさる有力者と組んで乗っ取ったという噂だった。
アンドレアは先に来ていた。ロドリーゴとマルコが大きな部屋に入ると、アンドレアは立ち上がって礼をした。そして、少し待ってください、と言って店の奥に行った。
アンドレアは、10人ほどの着飾った、とはいえ薄着の美女たちを連れて戻ってきた。アンドレアには、すでにくっついて離れない長身の女がいて、残り9人の中から1人ずつ選ぶよう促された。
ロドリーゴは手慣れた感じで、右から3番目の女を選んだが、マルコはとりあえず一列に並んだ彼女たちの顔を見た上で、小柄な金髪の女を指さした。ディヴァンという長椅子に2人ずつ座る格好となった。
アンドレアはブロークンだが悠長なコマン語で馴染みの美女と話し始め、ロドリーゴもまた大胆に女の胸をまさぐっていた。
マルコは、覚えたてのコマン語で話しかけた。
「私の名前はマルコ。あなたの名前は何ですか」
小柄な女は、じっとマルコの眼を見て、クレメンティア、とだけ告げ、ギリシャ産の高価な白ワインをヴェネツィア製のグラスに注いだ。
アンドレアはマルコに聞いた。
「カッファでの調査の進展はいかがですか」
マルコは、コマン語を勉強しなければならないと伝えた。
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