第19話 女奴隷

 アンドレアはマルコに言った。

「コマン語は、コマン人と一緒に過ごさないと覚えられません。語順や単語が、ラテン語やギリシャ語とはまったく違うのです」

マルコは付け加えた。

「私はラテン語もギリシャ語も学びましたが、最初は先生のもとで学習しました。クマン語も、ガラタで辞書を買って勉強しているのですが、やはり最初から独学では身につきません」

 アンドレアは、部屋にいる3人の女たちに、マルコがコマン語を学びたいと言っていることを伝えた。アンドレアにくっついている長身の美女は、ぶどうを一粒食べてから、ブロークンなトスカナ語で言った。

「旦那、コマン人の女と住みなさい」

マルコはプル銅貨を女たちに見せた。3人のうち2人は、これがなんなのと、怪訝な顔をしたが、マルコの側の女だけは違った。

「オン・アルティ・シ・ビル・ヤルマク」

と言ったのだった。

 マルコは、もう一方の面を見せると、女はクリムと言った。なんと彼女は文字が読めるのである。

 長身の女は言った。

「16は1ヤルマク、クリムということ。銅貨16枚は銀貨1枚に値し、クリムで作られた」

 アンドレアは微笑みながら、マルコに問うた。

「いかがでしょうか。今日、このクレメンティアと過ごしてみて、お気に召したら、手前がここの店主に、売れるかどうか聞いてみましょう」

ロドリーゴは、それがいいと賛同した。自分も今夜は隣の女を抱きたいのだ。

 長身の女は、アンドレアに立つように言って、2人で踊り始めた。それを見たロドリーゴもまた、女と踊るというより、抱きついていた。

 マルコは、クレメンティアの眼をじっと見つめた後、すっと手を握った。クレメンティアは、今日の客がただの若造ではなく、自分の今の境遇が変わるかもしれないことを感じたが、媚を売るような姿勢は見せなかった。おそらく、甘えたしなを見せたところで、この男は特に喜ばないだろう。

 夜も更け、与えられた部屋にクレメンティアと名乗った女はマルコをいざなった。どうやら飲み代を含め、一切合財をアンドレアが支払ったようだ。ロドリーゴは、いつもおごってもらっているらしい。

 クレメンティアは、自分の本名はアンナだと明かし、靴を脱いだ。

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