第17話 銀貨と銅貨
マルコは、ジョヴァンニとロドリーゴに尋ねた。
「コマン語の勉強をしたいのですが、誰かいい先生はいませんか」
ロドリーゴは、ワインを飲みながら、陽気に答えた。
「方法はただ一つ。コマン人の女と一緒に暮らすんだ。サライやその先の奥の方まで行きたい商人は、みんなコマン人の女奴隷を買ってるんだ」
マルコがジョヴァンニの顔を見ると、ジョヴァンニは軽くうなずいた。
ロドリーゴは付け加えた。
「ただし、顔や体だけで決めるなよ。賢い女を選べ」
古代ローマ時代、ギリシャ語の家庭教師は、だいたい奴隷だった。ただ、ロドリーゴのいった女奴隷は、専業の語学教師ではないだろう。
翌日、マルコは広場で開かれている朝市に出かけた。パン、野菜、果物、日用雑貨などの露店が並んでいた。
まず、広場の入り口の脇に両替商がいたので、ローマ帝国のヒュペルピュロン金貨を1枚渡すと、13枚の小さな銀貨がかえってきた。どうやら金貨の品位はよくないので、銀貨13枚にしかならないようだ。この銀貨はアスプルと言った。コマン語ではアクチェという。白くて小さいという意味だ。
次にマルコは、オリーブの実やカブを買おうとして銀貨を1枚渡すと、八百屋はこれでは売れないという手振りをした。そして、別の両替商を指差した。
マルコは、その両替商のところに行き、銀貨を1枚見せると、小さな銅貨15枚と交換できることが分かった。銅貨はプルといい、何か文字らしきものが書いてあったが、おそらくアラビア文字なので、マルコには読めなかった。この銅貨を八百屋に持っていくと、ようやくオリーブの実とカブを買うことができたのだった。
アスプル銀貨はすべてクリムの造幣所で作られていた。これに対して、プル銅貨は地元にも造幣所があった。こうした造幣所に銀や銅の地金や他国の硬貨を持っていくと、手数料30分の1と税金30分の1を取られた上で、アスプルやプルといったジョチ朝の通貨に替えてくれる。この税収はタルタルの取り分だ。
銅貨も銀貨も丸ではなく楕円形をしており、しかも銅貨の価値が異常に高かったが、朝市ではふつうに受け取られていた。
家に帰ったマルコは、銅貨を手に取って、まじまじと見つめてみた。王の肖像もなければ、十字架も刻印されていない。ただ、字が書かれているのと、丸に足が2本生えたような、見たことのない記号が刻まれていた。これがコマン語の表記なんだろうか。
マルコは、明後日さっそくジョヴァンニに、コマン人女奴隷の購入方法を教えてもらおうと思った。
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