第23話 参戦

 1298年の時点で、トクト大王とノガイのどちらが勝つかは、誰にも分からない。ノガイは先王トレブカを謀殺しトクトを擁立したのであり、今回もノガイはうまく乗り切れるかもしれない。

 ノガイの軍団にいるタルタル人はごく少数で、ほとんどはアス、キプチャク、ルーシ、マジャル、ワラキア、モルダヴィア、ブルガリア、セルビアなどの異民族の軍から成っており、常に戦い続けている精鋭である。

 これに対して、トクト大王は正規兵を握っているが、彼らはいわゆる近衛兵団であり、実戦経験は浅い。トクト大王の頼りは、ホラズム総督サルジウタイ附馬率いる中央アジア軍と、北コーカサスに駐留する諸王タマトクタイの探馬軍である。とはいえ、彼らの任地は首都サライから遠く離れている。

 カッファのジェノヴァ居留地としては、判断を間違えれば、勝った方から報復されることは目に見えている。領事は戻ったロドリーゴとマルコに問うた。

「開戦は不可避かな」

ロドリーゴは答えた。

「おそらく。ヤイラクは密かに、ガザリア(クリミア)各地で徴兵を命じております。カッファもよろしく頼むと言われました」

ジェノヴァ居留地が戦力を提供するとすれば、500人だと決められている。カタルーニャ弩兵150、盾を装備した歩兵と弓兵200に加え、補給・後方支援担当の軍属150である。盾と弓で敵を防ぎつつ、弩で攻撃するのである。

 テオドロ国の君主はすでに動員をかけ、首都マングプに歩騎混合750人を集めていた。

 領事はマルコに意見を求めた。

「ノガイ軍がガザリアに侵入し略奪を働けば、ノガイの負けです。ガザリアを攻めず、まっすぐサライに向かえば、勝負は五分五分。ノガイ軍がいったん本拠地に引けば、ノガイの勝ちでしょう」

ノガイとその配下はクリミアに権益を持っているにもかかわらず、ノガイの統制が効かず略奪を働けば、ノガイ配下の諸将はトクトに寝返るだろう。クリミアを攻めず、ドン河とイティル(ヴォルガ)河を渡る場合、凍っていればサライは壊滅するが、凍っていなければドンとヴォルガに挟まれ背水となり、勝利は困難である。トクト軍に一撃を与えてさっと引けば、トクト陣営内部の親ノガイ・反トクト勢力が動いて、おそらくトクトは暗殺されるだろう。

 領事は首を回しながら言った。

「ノガイが勝っても、タマトクタイやサルジウタイは、ノガイには従わないだろう。内乱が早期収束するためにも、トクト大王に勝ってもらわねばならない」

マルコはうなずいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る