第12話 クリミア・ゴート人
ゴート人はゲルマン民族の一つで、ゴート語は、ドイツ語よりもスウェーデン語に近かったと言われている。4世紀にローマ帝国に侵入したゲルマン民族のなかでも、東ゴートと西ゴートは非常に強力で、結果的に西ローマ帝国を滅ぼしてしまった。
ところが、ゲルマン民族が西にやってきたのは、東から押し寄せてきたフン族という遊牧民から逃げるためだった。多くのゲルマン民族がヨーロッパ各地に移住したが、クリミア半島に逃れた集団もいて、それが、クリミア・ゴート人なのである。クリミア半島の北側3分の2は遊牧民が暮らし、山地を隔てて南側にクリミア・ゴート人が住んでいた。
ゴート人はギリシャ正教に改宗し、また、ギリシャ系のガブラス家をいただくテオドロ国の支配下に置かれたため、宗教家や豪族の中にはギリシャ語を話す者もいたが、彼らの多くは昔ながらのゴート語を使っていた。
ジークフリートはドイツ人なのだが、ゴート語が何となくわかる気がする。ゴート語の単語の中にドイツ語と近いものがあり、また、その場の雰囲気で理解できるように思える。
ピエトロ船長は、少し急ごうと言って、領事館の中に入っていった。
受付の職員に対し、船長は告げた。
「ザッカリーア団のピエトロが、マルコ調査員とジークフリート・カタルーニャ兵団長を連れてきた」
職員は少し待つようにと言い残して、領事の下へ向かった。まもなく職員はもどってきて、領事室に通された。廊下を通る3人に、他の館員たちは興味津々という目をしていた。
型どおりのあいさつをすると、領事は3人に座るように言い、遠路はるばるご苦労と声をかけた。
船長は領事に報告した。
「ヴェネツィア船が海賊行為を目的として、うろうろしているようです」
領事は、少しだが、少年のように目を輝かせた。50歳をすぎた、びっくりするほど腹の突き出た、とはいえ品のいい紳士だった。若い時から外交官をしているが、軍人の家系出身で、陸海軍両方に関心を持っている。剛直なところがあり、本国の高級官僚から煙たがれ、要地とはいえ遠隔地の領事に留め置かれているとの噂だった。
領事は、次のように応じた。
「わが国の商船が敵に襲われたという報告は、今のところない。どこかに潜んでいて、北風が吹いて、船が出航するのを狙っているのか」
マルコは私見を述べた。
「あるいは、港を攻撃するかもしれません」
領事は、ほうと言うと、マルコに続けるよう促した。マルコは言った。
「動く船ではなく、動かない拠点を攻める方が、楽ではないでしょうか」
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