第11話 カッファ到着
さいわいなことに、マルコの乗った船はヴェネツィアのガレー船に襲われることなく、カッファの港に着いた。ジェノヴァ共和国の旗を掲げて、保税区域のある方の波止場に停泊した。積み荷の検査が行われ、徴集される関税の総額が計算される。この関税収入が、港と領事館の運営費となっている。
乗員名簿の確認が終わり、いよいよ上陸となった。とりあえず、マルコの船旅は終わったのだった。
領事館は港から歩いて15分ほどの突き出た半島にある。これとは別に、北側の丘を越えたところに領事公邸がある。ピエトロ船長とシークフリートに伴われ、マルコは、これから勤務する領事館に徒歩で向かった。
すでに夕方だったので、詳しい様子はわからないが、活気に満ちた港町であることは間違いない。
領事館の門前に警備員がいたので、マルコは話しかけてみた。
「こんにちは。はじめまして。本国から来たマルコです」
警備員はマルコに言った。
「こんにちは。ここに名前を書いてください」
と帳面を出してきた。マルコは聞いた。
「何語で書けばいいですか。ギリシャ語ですか、それともラテン語ですか」
警備員は、ギリシャ語で、と短く答えた。
カッファをはじめとするジェノヴァ居留地の地位は複雑である。カッファは、公式にはローマ帝国領なのである。警備員は一応、帝国の役人で、領事館を出入りする者を帝国側が記録している。ただし、警備員の給料は、実質的には領事館が払っている。関税の徴収はジェノヴァ人がしているが、これは公式には、ジェノヴァが皇帝の徴税請負人だからであった。
しかしながら、実際には、カッファの統治者はタルタル人であることを、マルコはだんだんと理解するようになる。
領事館の前の車止めには、すでに、馬車と馭者が待っていた。領事が公邸に帰る時間なのだ。馭者は、愛おしそうに2頭の馬の背をなでていた。マルコは馭者に話しかけた。
「こんにちは。立派な馬ですね」
すると馭者は不思議そうにマルコを見て、ピエトロとジークフリートに何かを言ったのだが、マルコにはまったくわからなかった。
ジークフリートはマルコに説明した。
「彼はゴート人で、ギリシャ語はわからない」
マルコは、歴史の本に出てきた、ゴート人という単語を初めて自分の耳で聞いたのだった。
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