第43話 補給艦隊
ウイウデイは、クリミア総督ヤイラクから、クリミアから海路ヤッシーやコムラトへ補給するよう命じられた。
困り顔のウイウデイに対し、マルクスは次のように言った。
「少なくともヤッシーへは、ドニエストル河口にあるアクケルマン港を使うことができます」
ウイウデイはマルクスを、フウシン部族軍とアス人部隊への補給の責任者にすることをヤイラクに提案し許可された。ヤイラクはマルクスに2人で話をしようと言った。
1301年5月、マルクスはカッファ領事館に戻ってきた。まず、領事と面会した後、馴染みの商人たちや領事館員、そしてジークフリートを呼んで、今回の計画について説明した。
「今回の作戦に参加することで、大きな利権が得られます。ドニエストル河をさかのぼれば、ブドウ酒や小麦の産地が広がっています。酒粕を利用した豚の飼育も盛んです。また、西隣のシビン(トランシルバニア)は金銀・毛皮・木材が豊富です。われわれは塩や馬、香辛料や絹織物、武具や防具を売って儲けることができるでしょう」
すでにアクケルマンとヴァルナにはジェノヴァ居留地はあるが、クリミアとこうした黒海北西岸の諸港をより安全に結ぶための拠点がもっと欲しい。
とはいえ、商人の多くは、北西岸よりも北東のアゾフ海の方が魅力的だと思っていた。アゾフ海のターナに居留地ができれば、東洋の物産をより有利に手に入れることができ、一攫千金を狙える。また、腐海でとれる塩の交易も確実に儲かる商売だ。これに対して、小麦やブドウ酒は農産物であるため、気候に左右される。
マルクスは一生懸命口説いた。
「農地や港を整えるのに、みなさんのもつ技術や経験が必要です。この計画にはタルタルの王侯が出資します。通商路の安全確保もタルタルがおこないます。もし今なにもしなければ、ハンガリーからヴェネツィア人がせまってくるでしょう」
この集会に来ている商人の多くはジェノヴァ人である。ヴェネツィアと聞いただけで対抗心がわいてくる。商人たちは話し合い、クリミア軍を西へ運ぶ契約を結ぶことに同意した。
カタルーニャ傭兵団長のジークフリートはマルクスに、いつ出発するかと聞いた。マルクスは、6月までには準備を整えたいと答えると、
「来月にはザッカリーア団のガレー船が来るはずだ」
とジークフリートは言った。
マルクスは6月末までにカッファから出陣すると宣言した。ジークフリート配下の40人の弩兵の動員も決まった。
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