第8話 コマンとタルタル
ガラタに帰ると、マルコを待っている人がいた。ピエトロ船長が、マルコが会いたいと言っていた、コマン人の知り合いを連れてきたのだった。
マルコが船長にお礼を言うと、彼も喜んだ。船長の知り合いの名は、テオドロスと言った。
「初めまして、マルコさん。私はテオドロス、皇帝陛下の家政騎士団に属しています」
通常、騎士は封土をもらい、その収入に応じて軍役に応ずるのだが、家政騎士は、皇帝の家計から直接給与をもらっている。テオドロスの両親はタルタル出身のコマン人だが、テオドロスは帝都生まれである。
マルコは、コマン語を勉強したいと言うと、テオドロスは丁寧に教えてくれた。
「帝都には昔からたくさんコマン人がいますので、コマン語辞典もあります」
テオドロスは、長身の金髪碧眼で、いかにも有能な軍人という風格をしている。彼のような騎兵がタルタルには掃いて捨てるほどいるのだ。
「コマン人はどこにでもいる。エジプトのスルタンもコマン人だし、ブルガリア皇帝もそうだ」
と船長は言った。
テオドロスはおどけて、
「陛下の後宮もコマン人だらけですね」
といって笑った。
「宦官はギリシャ人か、エチオピア人だが」
と船長は、おそらく冗談半分で付け加えた。
テオドロスは説明した。
「そう、帝国では昔から、ある民族にはその民族に適した仕事があるとし、職種ごとに違う民族を用いるのです。われわれの役目は、戦と子作りで、われわれを管理するのが去勢された者たちというわけです」
現に、家政騎士団の長もギリシャ人宦官だった。
マルコは、おそるおそる聞いてみた。
「タルタル人について、どう思いますか」
テオドロスは、正面を向きなおして答えた。
「タルタル人は世界最強です。われわれもまた遠征中は、チンギス・カンの定めたヤサという憲法にしたがって生活し、戦闘をおこなっています。トクト大王は陛下の娘婿であり、ノガイ様は先帝の娘婿です。私自身、トラキア方面で幾度となくタルタル軍との共同作戦に参加しました。タルタルに対抗できるのは、タルタルだけです。それゆえ、各国はタルタル式の騎兵を増やしています」
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