第23話 勇者たち

 これはアリスが王城を抜け出した直後の話である。


「なに!? 聖女様がいないだと!? お部屋にはいらっしゃらないのか! と、とにかく探すんだ!」


 アリスがお手洗いに行った後なかなか戻ってこないのでテイトが侍女に見て来るように言ったのだが何処にもいないことが判明。


 アリスが王城で迷子になることもないし急にかくれんぼを始めるような癖もない。つまりこれはアリスが意識的にどこかに行ったということになる。


「しかし、聖女様が何処に行くって言うんだ。この恵まれた王城にいてさらに将来は勇者である俺と結婚する。これ以上ない幸せだぞ。俺と結婚出来るなんて」


 これ以上ない妄想と自意識過剰だった。人間、力を持つとこうも驕ってしまうのだろうか。


「まぁ近くにいるだろうし直ぐに見つかるさ。テイトはどかんと座っていればいいのさ」


「それもそうか。本当俺の未来の妻は困ったやつだ」


 もはやここまで来ると面白いものがある。聖女アリスがテイトのような人間になびくわけがないのに。だってアリスにはずっと心に決めた人がいるのだから。


 そしてアリスを待つこと1時間。ずーっと待っていたパーティー一行だが未だにアリスが戻ってこない知らせを聞いていよいよ焦り出すのだった。


 結局アリスが戻ってくることはなかった。




 ====




「くそっ! さっさと死ね! おい! あっちのアンデットさっさと処理しろ!」


 そしてアインとアリスがヴィークを巡っている間、勇者一行は新しい魔法士をメンバーに加えまたアンデットとの戦いに挑んでいた。


 アンデット発生の根源とかラスボスみたいなところでこうして苦戦しているわけではない。


 今いる場所はまだまだ序盤の方だ。いつもならさっさと攻略して中枢部のもっと敵が強い場所で死闘を繰り広げているはずだったのに。


「こんなところでなんでこんなに手間取ってんだよ。クソ!」


 テイトもイライラし出していた。聖女アリスが見つからないこと。こんな序盤で手間取っていること。自分が思った時に支援魔法が来ないことに。


「もっと強い魔法を寄越せよ。今だからお前がいなくても全然問題ないがこれから敵が強くなったらお前が俺に支援魔法をどんどん寄越さないといけないんだぞ」


 テイトは新しく入った魔法士のリッサにアドバイスという名の文句を言っていた。


 リッサも王都では有名な魔法使いでヴィークより断然使えるだろうとの判断でこうして新しいメンバーに選ばれたのだった。


「そんなこと言ったって俺もギリギリなんだよ。テイトにばっかり魔法使うとこっちが死んじまう。てか俺は後方支援なんだからもっと俺に敵が来ないようにしてくれよ」


「何言ってんだよ。前いたあの使えないやつでさえ自分の周りくらいはやってたぞ。それに上位防御力強化スーペリアディフェンサとかくらいならバンバンこっちに送れるだろ?」


 それくらいやれよというテイトに対してリッサはどんどんと顔が青ざめていく。テイトの言っていることを信じたくないと言わんばかりに首を振る。


「そ、そんな嘘ついてんじゃねぇよ。そんなこと普通の人間ができるわけねぇだろ……」


 魔法をよく知っている人ならリッサの様な反応になるのも無理はない。三重魔法の行使出来る人物というだけでももかなりすごいのにそれを連発で使う。


 それにはとてつもないほどの技術と魔力量などがいることで王都にここまで出来る魔法使いはいないだろう。


「なんでそんなすごい人を追放してんだよ。ちょっと俺はやってられねえよ。こんな奴らのとこいたら俺が速攻で死んじまう。それはごめんだね。俺は王都に戻る」


 リッサそれだけ言うとサッと飛行魔法を使って飛んでいった。それをポカンと見つめる他のメンバーたち。


「おいおい。どうするんだよ」


「知るか! あんなやつどうせ役に立たないに決まってんだよ。もう行くぞ」


 これが勇者パーティー崩壊の一歩目だった。




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