第43話 村はこうなってます

「はい、お茶ね。アインちゃん少ないけどこんなのもあるよ。アリスちゃんもどうぞ」


「ありがとうございます。これって何ですか?」


お茶と合わせて出されたものに興味を持ったアイン。今まで見たことのなかったものだ。丸くてオレンジ色をしている。


「そっか、そっか。あんまり馴染みがないもんね。これはね甘いんだよ。論より証拠。食べて食べて」


ルーシーから貰った固形のものを一口食べてみる。それと同時にアインは口を綻ばせた。


「とっても美味しいです! 甘い! これ何という食べ物なんですか?」


「これは飴だよ。美味しいでしょ。お腹は膨らまないけれど保存食にも丁度いいの」


「へえ。初めて食べました。この村でしか作っていないんですか?」


「私もこんなもの食べたことないです。甘いからお砂糖使ってるんですか?」


「そうだね。お砂糖使ってるよ。ヴィーク君、アインちゃんにこの村のこと言ったの?」


「いや、全く。着いてから言おうと思ってましたし」


ヴィークはこの村のことをとても素敵でいい村としか言っていない。しっかり自分の目でこの村を見て欲しかったから。


「なにかあるんですか?」


「それじゃあ私が教えてあげよう」


アインの質問に答えるためにもまずは村のことを知ってもらう必要がある。


◆◆◆



「なるほど……そんな過去があったんですね」


ルーシーがアインとアリスに言ったのはこうだ。


この村、マンテ村は1500年ほど前までアンデットとの戦いの前線に位置していた砦だったらしい。500年くらい前から勇者パーティーたちがアンデットと戦っている前線ははるか先になったので砦とかの役目は終わって平穏な村へと変わっていった。


マンテ村はかなり立地が良く、大きな川、草原には綺麗な花が咲き誇っており木にはたくさんの果物が生っている。


他にもいろいろと素晴らしいとことがあるが、言うならここは理想郷と言ったところだろうか。コルン村もなかなかだったけれどマンテ村はその上を行くレベルだ。


それだけではなく昔は砦だったのもあるのか魔法が使える人や白兵戦に対応できる人が多い。閉鎖的でなく外部から来た人にも優しい。滅多にこないが。それがヴィークがこの村を選んだ大きな理由だった。


「アインを守るって言ったけどもしもの時頼りになる人は多い方がいいしね」


「なるほど。ヴィークくんはそこまで考えていたんだね」


「あのさ……お兄ちゃんに聞きたいことがあったんだけど」


ここでルーシーが思っていたことを口にした。


「勇者パーティーはどうなったの? 前ここに来た時って勇者パーティーのメンバーだったよね」


「それはですね……」


ヴィークは勇者テイトに力がないという理由で追放されたことをルーシーに話した。それを聞いていたルーシーは持っていたコップを静かに机に置くとふぅーっと長い溜息をついた。


「なるほど。まああの勇者は性格に難ありって感じだったもんね。でもそっちの方がアインちゃんとも居れるようになったんだし良かったかも。アリスちゃんも多分こうなったらからこそ、ヴィークくんといれるわけだし」


「確かに今思うとそうですね。でも今、俺とっても楽しいんですよ」


ヴィークは屈託のない笑顔を浮かべてルーシーの方を見た。それはヴィークが前回勇者パーティーのメンバーとしてマンテ村を訪れたときには見せなかった笑顔だった。


「そうそう。大切なのは人生を楽しむことだからね。短い人生なんだから悔いの無いライフを送らないと」


「そうですね。それで俺たちはここで暮らしていきたいと思ってるんですけど。どうですか?」


「いいじゃん! 新しい家はみんなに頼めば建てるの手伝ってくれるだろうしそれまでは私の家に居てもいいんだけど」


しばらくはこの家に住んでいいと言われた2人は目を見合わせて……


「いえ、大丈夫です。テントもありますし迷惑はかけられません」


「そう? ならいいんだけど何かあったら言ってね。君は人類を守ってきた存在でもあるんだし遠慮なく言ってよ」


そう言って笑っているルーシーを見て3人は思った。王都を出てから出会った人たちはみんな最高な人だと。



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