第2話 再開しました
アインの両親は馬車の衝突事故で亡くなった。奇跡的に生き残っていたというアインは、ある家族に引き取られた。そこの家にはアインより1つ上の男の子がいた。義理の兄。名前はクラン・ヴィーク。
ヴィークとアインは、その親から奴隷的扱いをされていた。朝から晩までこき使われる毎日。自分だって辛いはずなのにヴィークはいつもアインを気遣っていた。
ヴィークはとても優しくていつもアインのことを思っているかっこよくてすごく頼もしいお兄ちゃん。
そんなお兄ちゃんが大好きだったが、ヴィークが12歳になった時に教会で加護の有無などを調べてもらったところヴィークが「完璧なる魔法の使い手」であることが判明。
さらに三重魔法をわずか12歳で行使したということで即戦力として期待されて勇者パーティーに参加させられることになった。
しかしそんなことになればアインとヴィークは離れ離れになってしまう。それだけは嫌だとアインは泣いて行かないで欲しいと懇願した。
しかし勇者パーティー参加によって得られる金額は莫大で金に目の眩んだ両親はアインのことを気にも留めずヴィークを勇者パーティーへと送り出した。
今日、勇者パーティが帰還すると聞いた時から鼓動が速くなっていた。でもヴィークは家へ帰ってこない。以前ヴィークが家へ帰ってきた時、両親は会わせてはくれなかった。
「お兄ちゃんに会いたいよぉ」
誰もいない家でアインは一人そんな言葉をこぼす。すぐそこに自分の一番会いたい人はいる。しかし、それは物理的な距離であって、何の力もないアインにとっては絶望的な目には見えないな高い壁があった。今の自分が、王城に行っても中に入れてはもらえないだろう。
目には涙が浮かんでいた。そして、それは一筋の線となってアインの頬を伝った。
「アイン、きっと迎えにいくから。それまで……それまで待っててくれ」
ヴィークが家を出るとき体の小さいアインを抱きしめながら涙交じりにかけた言葉だ。アインはその言葉を心の支えにしてこのつらい日々を過ごしてきた。
しかし、今日だけはアインも我慢できなかった。一度流れ出した涙は止まることを知らず、頬から落ちた雫はテーブルを濡らしていった。
コンコン
急に家のドアをノックする音がした。アインはびっくりした。いまは、夜の九時を回ったくらい。こんな時間に来客なんてふつうあり得ない。
しかし、居留守を使うわけにはいかない。アインは、恐る恐るドアを開いた。
そのアインの目の前には自分の大好きなお兄ちゃんが立っていた。
「アイン……」
「えっ……お兄ちゃん……」
◆◆◆
「アイン……」
「えっ……お兄ちゃん……」
まだアインは何が起こっているか理解できていないようでヴィークを見て固まってしまった。そして、ハッとしたようにブンブンと頭を振った。
アインは、否定されたくないとおもいながら。しかし、ちゃんと確認しないといけないと覚悟を決めて震える声で問うた。
「ヴィークお兄ちゃんなの?」
「ああ、俺はクラン・ヴィーク。アインのお兄ちゃんだよ」
そう聞いた瞬間アインはヴィークの懐へ飛び込んだ。ヴィークはそんな妹をそっと抱きしめた。
「お兄ちゃん……ぐすっ」
さっきとは違う涙が流れてくる。でも、心の中はとても温かい。ヴィークもアインの頭をなでながらアインが泣き止むのを待った。
しばらくしてアインが落ち着いたところで二人は一度家の中へ入った。そして、テーブルをはさんで今日のことを話そうと椅子に座ろうとしたのだが。アインがずっとくっついて離れようとしないので床に座って話すことにした。
「アイン……俺は勇者パーティーを追放されたよ」
ヴィークはマリンに言われたことをアインに伝えた。追放されたこと。自分が弱いのがいけないこと。すべてを伝えた。
繋いだ右手をアインはぎゅっとさらに握る。
「アイン。このまま二人で静かな場所で暮らさないか?俺はもうこの家に居たくない。それでさ、冒険中にみつけたんだ。とてもきれいで静かな村を。俺はそこでアインと幸せに暮らしたい。ただ……アインが嫌なら……」
「嫌なわけない!!」
ヴィークの話を止めさせるくらいアインは大きな声で言った。
アインは一緒に暮らしたいというヴィークの思いが嬉しかった。とても嬉しくて、好きな人から貰えたその言葉が嬉しくて、ヴィークを後ろから抱きしめていた。心臓の鼓動は聞こえてはいないだろうか。
「嫌なわけない…嫌なわけないよお兄ちゃん。私の幸せはお兄ちゃんの傍にいること。他にはないの」
「アイン…なら俺と一緒についてきてくれるか?」
「うん!!お兄ちゃんを幸せに…幸せに絶対する!だから私をつれて連れていって!」
「あぁ、アインこれからは絶対離れないから。俺もアインを幸せに絶対するから」
アインはその言葉が嬉しかった。好きな人からもらえたその言葉が嬉しくてさっきより強くヴィークを抱きしめていた。
「私もずっとお兄ちゃんの横にいるから」
「ははっ。あの親たち俺たちが一緒に遠くで暮らすって知ったらどんな顔するかな」
お互いに笑いながら涙を拭って、この家を後にした。
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