第3話 一方そのころ
「いや~ようやくあの使えない魔法使いを追い出すことに成功しましたね」
「あっはっはっはそんなこと言ったら可哀そうだろ? 荷物持ち程度には使えていたんだから」
「それもそうですね。でもこれで我々の報酬をあの使えない人間に払う必要もなくなりました。荷物持ちには合わないくらいの報酬でしたから」
勇者パーティーのメンバーは王城の一室で酒を飲みながらそんなことを言っていた。今は勇者パーティーの帰還祭の一次会が終わって二次会が始まるまで待っているところだ。
そしてこの話を聞く限りヴィークの勇者パーティーのメンバー内での評価は最悪だろう。人類を救うためのこのパーティーだが、なかなかに最低なことを言っている。
やはり人は金に呑まれてしまうものなのだろうか。初代勇者がこんなことを知ったら相当がっかりするだろう。
「おい、テイト聖女様だぞ!」
と、ここでテイトたちのところに来たのは聖女アリス。金髪碧眼美少女の彼女にメンバーは全員釘付けだ。
この少女はヴィークと同い年の18歳。「聖女の加護」を発現した彼女は毎日国民が平和に生きるために祈り続けている。
「勇者リグ・テイト様。無事の帰還大変うれしく思います。長旅とアンデッド討伐お疲れ様でした。私はいつも祈ることしかできませんから」
ちょっと申し訳なさそうにアリスはペコリと頭を下げる。
「いえいえ。それが私たちの神から与えられた役割ですから。聖女様の祈りも私たちに力を与えてくださいましたよ。ではではこちらにどうぞ」
下心満載でテイトが自分の横の席にアリスを誘導する。この男、アリスを狙っているのだ。アリスは美少女。さらに聖女と勇者の結婚となればこれは自分の地位もさらに上がるだろう。
その話をヴィークを除くメンバー全員が知っている。ヴィークには話す価値なしという結論らしい。
そしてテイトの方に一歩足を踏み出したところでアリスはピタリと止まってしまった。
「あの、そういえばヴィーク様はどちらにいらっしゃるのでしょう? もしかしてお手洗いでしょうか?」
キョロキョロとヴィークを探すアリスにテイトは自慢げに言った。
「あいつなら今さっき追い出しましたよ。全然役に立たないやつでしたからね。王もこれで喜ぶでしょう。無駄な出費は嫌でしょうから」
その言葉を聞いたアリスの顔がドンドン曇っていく。しかしそれは一瞬で次の瞬間にはいつもの笑顔に戻っていた。でもその笑顔は取り繕った感じがする。
「あ、すみません。ちょっとお手洗いに……では」
言い終わるとアリスはそそくさと部屋を後にした。
そしてその後アリスがこの部屋に戻ってくることはなかった。
◆◆◆
「ちょっと~どういうことなのよこれは!」
自室に戻ったアリスはベッドの上で足をバタバタさせながら先ほど勇者テイトから聞いたことを思い出していた。その姿は先ほどの「聖女」といは程遠く、わがままな子供といった方がいいかもしれない。
「どうしてヴィーク君がそんな酷いことされなければいけないの……」
そう言って悲しくそして申し訳なくて胸が痛む。ヴィークがパーティーの中で良い扱いを受けていなかったのは知っていた。
アリスのベッドの横にある人の背丈くらいの鏡。それは魔法の鏡と呼ばれるもので魔力を使うことで遠くの場所を映し出すことが出来るものだ。
歴代聖女はこの鏡を使い、困っている者たちに手を差し伸べていた。もちろんアリスもそうしていた。
しかし、聖女としてではなく一人の女の子としてこの鏡を使う時いつもヴィークを見ていた。
何故かって? そんなの決まっている。アリスがヴィークのことをとても好きだからだ。それ以外の理由はない。
「今どこにいるんだろう。ちょっと見てみよっ」
ベッドから飛び降りて魔法の鏡を発動させてみる。と、それはちょうどヴィークとアインが再会して家を出ようとしているところだった。
「ちょっと!? ヴィーク君とアインちゃんだっけ妹の。どこに行くつもりなの?」
こんな夜に2人が出歩いている。それもとても嬉しそうで楽しそうで。
何を言っているのか気になったので魔力をさらに加えて音声まで拾ってみる。
「ねぇお兄ちゃん。こうして抜け出して遠くに行っちゃうってすっごくワクワクする」
「そうだな。俺もアインを連れてこうしていけるなんて思ってもみなかったよ」
2人の話を聞いているとなんだか2人は王都を抜け出してどこか遠いところに行くらしい。
「なにそれ! すっごく楽しそう! 誰もいないところで私とヴィーク君と妹ちゃんの3人で暮らしていく……。私とヴィーク君は結婚。えへへ」
そこからのアリスの行動は速かった。サッと荷物をまとめて城から脱出。パーティー会場にみんな集まっていたおかげで抜け出しやすかった。
「まっててねヴィーク君! 今会いに行くから!」
こうしてアリスが奮起していることをヴィークとアインは知る由もなかった。
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