第52話 完成です

「完成!! ついに完成!!」


「本当だな。こうやって見ると感動だ。これが俺たちの家。嬉しいなアイン、アリス」


「うん!」


「夢だったの。私たちの家」


 遂に3人の家が完成した。それは村の人達の家とはちょっと違ってログハウスのようなもので、最初は設計図を見たときはみんなになんだこりゃと言われたものだった。でも完成したこの家はだれもが良いなと思うようなもので最高の出来と言えるだろう。


 でもそれはアイン、アリス、ヴィークだけの力ではない。この村みんなが力を貸してくれたからこそこうやって素晴らしい家が建ったのだ。3人もよくわかっているのでしきりにいろんな人たちにお礼の言葉を言って回っている。


 家の建築期間はわずか1週間。みんなが頑張ったおがけでこんなに早く仕上がったのだ。もちろん手抜き工事はしていない。ヴィークたちに早くちゃんとした家に住まわせてあげたいという優しい心意気からみんな頑張ったのだ。


「「「本当にありがとうございました」」」


「良いって良いって。こういうのはお互い様だし、俺たちの家とかもみんなで建てたんだから。それよりこれからは頼むぜ」


 深々と頭を下げる3人に屈強そうな男が答えた。この人ひたすら丸太を運んでたを2人組の1人だ。横には奥さんであろう女性と子供が2人。まさかの子の人妻子を持つ一家の大黒柱だった。


「ヴィークさんたちの家ってここじゃあ見られない感じの家だけど、どこかの地方の様式なの?」


 話しかけてきたのは奥さん。名前は確かメリッサだったような。アインとヴィークもまだうろ覚えっぽい。まあ一気に100人の名前を完璧に覚えるのは流石に難しい。


「これはコルン村ので、昔あった様式だそうです。今はこんな感じの家は見られません」


「へぇ! こんなに良いのにびっくりねえ。あっ。そろそろ時間だから私たちも家に戻らないと。それじゃあ後でね。さあ行きましょ」


 こうして屈強な男夫妻は家に戻って行った。


 さっきメリッサが言っていたのは3人の新築祝いと3人からのお礼を兼ねた簡単なパーティーをするからである。アインが一人で全員分の料理を作るとか最初は言っていたが、流石にそれは無理なので各家庭の持ちよりで作ることになった。


「それじゃあさヴィークくん。私たちの家に入ろっか」


「お兄ちゃん。せーので入ろ」


「そうだね。そうしよっか」


 3人は仲良くいつものように手をぎゅっと繋いで家の中に入って行った。


「わわっ。やっぱりすごいよ! ぴかぴかだよ! それにほら! ここが台所で! うーんすごい!」


 もうアインは大興奮だ。楽しそうに家の中を見渡す。まだ何もない殺風景な部屋だが3人にとって初めての一生もののもので、これから暮らしていくところで……そんなことを考えたらアインの気持ちはよく分かる。


 豪華さは王城の方がいいだろうがそんなものとは比べ物にならないほどの嬉しさをアリスも感じていた。アリスとってこの家は王城より遥かに大切なものだ。


「よし。テントを撤収していろいろ準備しないと。アイン。嬉しくてはしゃぎたくなるのは分かるけど先にやることはやっておかないと後で困るぞ」


「それは分かってるけど~。お兄ちゃん冷静だけど私との家が完成したのそんなに嬉しくない?」


 そうやって遠慮がちに聞くアインを黙ってヴィークは抱きしめた。


「馬鹿言え。めっちゃ嬉しい。アインとこうやって暮らしていけるとか俺にとったら天国だ」


 1つ変わったことがある。ヴィークが何故かこういうことをよく言うようになったのだ。心境の変化と言えるだろう。


「えへへ。ヴィークったら積極的。まさかここでしちゃうとは思わなかったよ」


「2人が俺に気持ちを伝えてくれたから。俺もしっかり言わないとダメかなって。ただごめん。返事はまだ出来そうにない」


「ううん。良いの。それだけしっかり考えてくれてるってことだし」


 着実に一歩一歩前に進んでいる3人だった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る