第53話 好きな味
「ふんふふーん♪」
あの後、さっとそれまで暮らしていたテントやら何ならを片づけて引っ越し? を完了させた。とはいっても最初から持ち物は少なかったし、持って行くものはほぼマジックボックスに入れたのでなんの問題もなかった。
そして今、アインはパーティーの料理を作っているところ。機嫌よく作っているのは新しい台所で料理を作れて嬉しいのか、はたまた横にヴィークがいて一緒に作れているのが嬉しいからなのか。どっちもだろうけど、後者が強い要因だろう。
アリスは会場の設営をしている。明日くらいからアインに料理を教えてもらうつもりだ。
「お兄ちゃんそこの調味料とって~」
「はい。これだよね」
けっこう広めの台所にはアインだけではなくヴィークの姿もある。2人で仲良く料理を作っている真っ最中。アインが基本的に作ってヴィークがサポートする感じだ。
「こうやって一緒に料理作るのって初めてだよね。ふふふ。嬉しいなぁ」
カミーユに貰ったトマトを切りながらにこにこ顔のアインがそう言う。こうやっていると、とても楽しいし何といっても落ち着く。
「ちょっとお兄ちゃんあっちに行ってもらってもいい?」
「え? 俺何かした?」
さっきまで楽しいとか思っていたのに急にアインはそんなことを言った。ヴィークも何故か分からず戸惑うばかり。それに対してアインは少し笑って答えた。
「今から得意のから揚げを作るんだけど、これはだれにも言えないから。ごめんね。秘密の味なんです。アリスちゃんにも教えれないの」
「なるほど。なるほど。アインの味なんだ。よく親の味とかっていうしね。俺たちに親の味なんて無いけど」
まともな親ではなかったヴィークたちの両親。幼いころに本当の両親を失ってさらに新しい家でもアインにとってお母さんの味なんてなかった。
「でも俺にはアインが心を込めて作ってくれた料理の味がある。これからもアインの味を食べせて欲しい」
ぺこりと頭を下げるヴィーク。ヴィークにとってもおふくろの味的なものはアインの料理の味だった。まだそんなに経っていないけど、もうアインの料理にべたぼれだ。もう完璧に胃袋をつかまれた。
「わわっ。そんなことしなくていいから頭上げて! これは私が好きでやってることだから。ヴィークが美味しそうに食べてくれてるのを見るのが嬉しいの」
「ありがとう。それじゃあ俺はあっちに行ってるよ。出来たら教えてね」
「はーい。とっても美味しいのを作るから楽しみにしててね」
◆◆◆
「さて。俺のすることがなくなってしまった」
今、アインに台所にいないでと言われたのですることがなくなった。でもじゃあそうですかとゴロゴロするのもなにか違う気がする。なにかすることは無いかと考えるけどなにも浮かばない。
いや、アリスの方の手伝いに行けよという意見は受け付けない。いや、その時ヴィークにその考えは無かったのだ。
「うーん。そうだ。森にベリー類の何かが生っていたっけ。でもあれって今あるかなあ。あれでジュースでも作ったらアインもびっくりするんじゃ?」
何かを思いついた子供のように楽しそうな顔になるヴィーク。
「アインがから揚げを作り終えるまでだいたい20分くらいか。それまでに山に行ってベリーを採ってジュースにすると。美味しく出来るかも分かんないしなあ。でもやってみる価値ありだな」
そっとから揚げ作りに集中しているアインにばれないように家を抜け出し山へ。急がないといけないので今は身体強化の魔法で一気に目的地へ。
「お。これこれ。勇者パーティーのメンバーだったころからここって変わってないんだ」
何年か前にここを偶然見つけてからここは全然変わっていない。たくさんのラズベリーだろうか。が生っていた。
「ってそんな感傷に浸る暇はなかったんだった。でもここアインにも教えてあげたい」
そんなことを考えながら急いでラズベリー? を採る。十分な量を採ればダッシュで山を駆け降りる。
「さあどんな感じになるかな?」
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