第54話 ラズベリーの使い道

 ドンドン! ドンドン!


 お昼ご飯を食べ終わって少しウトウトしていたルーシーの意識を一気に覚醒させる大きな音。のそっと起き上がったルーシーはその音がする方へとのそのそと歩いてく。


 その音は玄関を叩く音だった。全く静かにして欲しいものだ。ヴィークたちの家が完成してそのパーティーが夕方からあるからそれまでゆっくりしていようと思ったのに。


「はいはいどなた~?」


 髪をポリポリ出るとそこにいたのはヴィークだった。少し息を切らした感じで玄関の前に立つヴィークは、手に持った籠を持ち上げルーシーの前に見せる。


 籠いっぱいのラズベリーが酸っぱいけど甘い匂いも醸し出していて、なんとも言えない空間が出来上がる。新鮮なラズベリーはそれだけ香りなどが強いのだ。


「ルーシーさん。突然で申し訳ありませんが台所使わせて頂けませんか? ちょっと急ぎの用事があるんです」


「なになに!? どうしたの? 何かあった?」


 急用とは何事かと慌てて尋ねるルーシーだがそんな非常事態ではない。ヴィークは落ち着いた感じで言った。


「今、ラズベリーを収穫したんですけどこれでジュースを作ろうかなと思って。でもアインがから揚げ作っていて台所に入れないのでちょっと台所を貸して欲しいんです」


「から揚げだって!? ヴィーク君それは今日のパーティーで出すものなのかな?」


「はい、そうですよ。それでアインにびっくりして貰えるように、アインが作り終えるまでに俺も完成させておきたいんです」


「そうかそうか。アインちゃんのから揚げか~うんうん。あれは最高だよね」


 アインの作ったから揚げを想像しているのか、うっとりとしたルーシー。もはやアインのから揚げにべたぼれになっている。まぁ分からないでもないが。


「それで台所使わせてもらってもいいですか?」


 自分の世界に入り込んでしまったルーシーを現実に戻ってこさせる。こんなにもから揚げに魅了されているのをアインに知らせたら絶対喜ぶだろう。


「っとそうそう。もちろんいいよ。使っていいよ」


 許可を得ることが出来たので早速台所を使うことに。


 籠に入ったラズベリーをザっと水洗いして洗っていく。なかなかに量があるので大変だ。


「それにしてもヴィーク君。それだけのラズベリーをどこから採って来たの?」


「それはですね。あのや……」


 あの山のふもとです、と言おうとして途中で止まってしまった。ヴィークが見つけたところはアインとの秘密基地にしようかなと思っていたから。


 もし、ルーシーに言ってしまったら2人だけの特別な場所じゃなくなってしまうかも知れない。こういうのは独占するのはいけないことだとは分かっているのだけど。


 言い淀んでいるヴィークを見てルーシーはニヤッとしてヴィークの肩を2、3回叩いた。だいたいのことを察したのだろう。


「やっぱり聞かないことにしておくよ。でも私も食べたいからたまに私の家にも持って来てくれないかな? 私の方からは野菜をあげるよ。交換でどう?」


「ありがとうございます。なら是非お願いします」


「うんうん。よろしくね」


 そこからラズベリーを洗い終わったらさて、これからどうしたらいいんだろう。


「ただ、潰すだけじゃ絶対美味しくないよな。やっぱり砂糖とかで甘くした方が良いのか。うーん」


 簡単にジュースにしようとか考えていたけど、美味しく作る作り方なんてよく分からない。ルーシーの知らなかった。どうしようかと悩むヴィークにルーシーは言った。


「ならもう仕方ないしアインちゃんと一緒に作ればいいじゃない。2人で一緒に美味しいジュースを開発するの。いや、アリスちゃんも一緒じゃないとけいないね」


「なるほど! その考えは無かったです!」


 アインに内緒で作ってびっくりさせたいと考えていたヴィークにとってこの考えはなかった。3人で一緒に新しいものを作る。これは絶対楽しいやつだ。


「ルーシーさんありがとうございます! 早速帰ってアインに言ってみます! あ、これこのままでも美味しいのでルーシーさんもどうぞ」


 ヴィークはルーシーに一掴み分のラズベリーを渡すとそのままアインのいる家へとダッシュで帰って行った。


「本当、ヴィーク君アインちゃんの事もアリスちゃんのことも好きすぎだよ」


 ラズベリーを一つ食べながらルーシーが言った言葉はだれにも聞かれることは無かった。


「うん。少し酸っぱくておいし」










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