第55話 作ってみましょう
「アリス! 一回家に戻って来て!」
「ヴィークくん! どうしたの?」
「いいからいいから!」
ギュッとアリスの手を引いて家へと急ぐ。今は急ぐのに必死でアリスの手をこうして握ってるのも無意識。ただアリスはちゃんと照れていた。
「アインただいま!」
勢いよく玄関を開けたヴィーク。ルーシーの家からヴィークたちの家までざっと200メートルくらい。これを猛ダッシュで走り切ったのだった。
これは愛の力ではなくて、単純に200メートル走るのを頑張っただけだ。愛の力ではない。
「おかえりなさい! ってそれよりどうして玄関のほうからお兄ちゃんの声が? それにただいまって。居間にいると思っていたのに」
反射的におかえりなさいと言ったけど、ヴィークが何をしていたか知らないアインにとって急にヴィークが玄関から戻ってくるのは驚きだろう。でもとにかくヴィークの声がする玄関の方へ行ってみる。
「アイン。ただいま。から揚げはもう出来た? すごい良い匂いがここまでするよ」
「おかえりなさいお兄ちゃん。から揚げはもう完成だよ……どうしたのその籠いっぱいの果物っぽいのは」
「あ、本当だ。私、全然気づかなかった」
ヴィークの持った籠を見てびっくりするアイン。アリスもヴィークのことしか考えてなくて籠なんて気づかなかった。アインもいつの間にかヴィークがこんなにたくさんのラズベリーを持って帰ってきたら確かにびっくりするだろう。
「これは俺が発見したところにたくさん生っていたやつでラズベリーって言うんだ。それで本当はこれで何か作ってびっくりさせようと思ったんだけど、どうやって調理したらいいか分からなかったからアインとアリスと一緒に新しいものを作ろうかなって」
それを聞いてパーッと顔が明るくなった2人。ヴィークに一緒に新しいものを作ろうと言われたのがよほど嬉しかったらしい。ただ、ラズベリーを初めていたアインが出来ることはあるのだろうか。もちろんアリスも初耳だ。いや、3人なら何でもできる気がする。
「うんうん! いいねいいね! 楽しそう! それでどんな感じにするの?」
「ジュースにしたいなって思ってるんだけど。簡単そうだし。どうかな? 王都ではこれでパイとかも作ってたらしいけど無理だろうし」
「なるほどね。良いと思う! ちょっと一つ食べていい?」
ひょいっと一つ食べると美味しそうにアインは口を綻ばせた。そのままもう一つひょい。もう一つひょい。隣のアリスも止まらない。
「ちょっとちょっと2人とも。食べ過ぎだって! これじゃなくなっちゃうよ」
「ごめんごめん。でも、これとっても美味しい! 少し酸っぱくて何個でも行けちゃう感じ!」
「みずみずしいね。採れたて新鮮」
うんうんと頷くヴィーク。そういってヴィークも一つパクッとラズベリーを食べた。こんなことしてたら本当にジュースを作る前に無くなってしまいそう。
「それじゃあ2人とも、俺と一緒にこのラズベリーで美味しいジュースを作るのを手伝ってくれるか?」
「うんっ! もちろん!」
「任せといて!」
早速3人はラズベリージュースの開発を開始した。
まずは数個を潰してそのまま水で割ってみる。出来たのはなんだかよく分からない薄い赤紫色の液体。はっきり言って美味しそうとは言えない。
ただ、見た目と味はたまに真逆の感じになることがある。よね? だから見た目が悪くても美味しい可能性だってある。と、いうわけで試作品第一号を早速飲んでみる。
「うぇ~。ただ潰しただけじゃ全然美味しくない。生で食べたほうが圧倒的にいいよ」
「全くもって同感だよ。これじゃあ誰も喜ばないね」
信じて飲んでみた試作品第一号は残念ながら全然美味しくなかった。はっきり言って不味い。
「うーん。どうやったら美味しくなるのかなぁ。これに砂糖入れてみるとか?」
「なるほど。ちょっと入れてみるよ」
砂糖を入れてみて飲んでみる。一口含むと口いっぱいに広がる微妙な味。さっきよりはまぁ良くなったけどこれじゃただの水を飲んだ方が100倍マシだ。
「なかなか難しいね」
「そうだな。まあこんな簡単に出来るとは思ってなかったけど」
「じゃあ次はこうしてみよう」
こうして3人の開発は進んでいく。
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