第35話 お礼をしましょう

 夜も更け。そろそろ祭りも終わりが近づいてきた。と言っても、みんな騒がしく放っておけばそのまま夜を明かしそうな勢いがあ?。一応ヴィーク、アイン、アリスの送別会という名目だが、たぶんみんなそんなことは忘れている。


「おぉヴィーク君。どうです、楽しんんでいますか?」


 ここで声を掛けてきたのはサムとエル。にこにこ笑顔で語りかけてくるが、ヴィークにはどうしても一言いいたいことがあった。


「はい、楽しんでます。でもここまで盛大する必要はないのでは!?」


 周りにはかなり言ったが、こんなことをするのは大げさすぎる。村人全員が参加したこの祭り。もはやヴィーク教と言わんばかりだった。


「いいじゃないですか。おめでたいことがあったらみんなで祝う。感謝もしっかり忘れずにちゃんと言う。それがこの村の決まりですから。そして、3人はこの村の一員なんだから当たり前です」


「そ、そうでしたか。なら……ありがとうございますなのかな? 恥ずかしいけど」


「そうです。ここのみんなは仲間なんだから忘れないでくださいね。それではこちらへ」


 サムに連れられて3人はみんながいる真ん中へ。ここまで来るとみんなが察した。


「ではみんなで3人を胴上げしましょう!」


「え? 何か言うんじゃないんですか?」


 みんなの真ん中に行かされて、そろそろ終わりなんだから締めの挨拶を言うのかと思った。しかし、違った様だ。


 サムの掛け声で周りの人が3人に群がる。そしてわっしょいわっしょいし始めた。酒に酔った人もいるようで徐々にヒートアップ。


「おわっ! わっ」


「きゃっ!」


「ちょっと楽しいかもっ!」


 結構高くまで何回も投げられる。しばらくそうされたらお祭りはおしまい。最後にヴィークが一言いって締めることに。


「あの、皆さん俺たちのためにこうやってしてくれてありがとうございました。俺たちは絶対ここで過ごした日々を。皆さんを忘れません」


 ヴィークは自由飛翔フリーフライを使って空に舞い上がった。みんな驚いて「おぉ」と歓声を揚げたが夜の空は暗く、もうヴィークの姿は見えない。


 地上20メートルほどまで昇ったら右手を空に挙げて魔法を唱えた。


雪生成ニエべアセール




「えっ……?」


 突然雪がしんしんと降りだした。今は夏で雪が降ることはあり得ない。それを可能に出来る人と言えば…


「お兄ちゃんなにをしたの?」


 ゆっくり空から降りてきたヴィークにみんなの疑問を代表してアインが聞いた。子供たちとかは大はしゃぎで降ってくる雪を追いかけまわす。


「天候操作の魔法だよ。ちょっと雪降らせてみた。どうかな?」


 雪を降らせるという偉業をしているというのに普通な顔して答えたヴィーク。そんなヴィークにみんなは口をポカンと開けて何も言えなかった。


 でも次第にヴィークならそれくらい出来るかと納得し始め、大人たちも雪を楽しみ始めた。


「ロマンティックだね。夏にこうやって雪が見れるなんて思ってもなかったよ」


「そうだろ? これ結構好きな魔法なんだ。実用性がなくて全く有名じゃないしこれでも三重魔法なんだよ。俺は魔力が少ないからそんなに長くは出来ないけどね」


「みんなへのお礼ならすごく良いと思うよ。だってみんな楽しそうだもん」


 辺りでは大人も子供の一緒になって雪を楽しんでいる。一人眺める人もいれば雪を食べようとする人達まで各々がこの時間を楽しんでいた。


「きれいだね。こうやって肩を並べて雪を見るのって初めてだよ」


「うん。また今度、次は冬にちゃんと雪みたいな。ずっと一緒に」


「大丈夫。何回だって見れるよ」


「ヴィークくん。冬になったらかまくらとか作るもの楽しいかもしれないね。冬なんてまだまだ先なのにもう楽しみになっちゃった」


 こうして3人の為の祭りは幕を閉じた。



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