第34話 お祭り

「お兄ちゃん!」


「アイン!」


 しばらくしてある程度の体力が回復したヴィークはアリスと一緒に村のみんなが避難している場所へと向かった。


 そしてヴィークは村のみんなから拍手で迎えられる。ちょっと恥ずかしい感じもしたけれどそれはそれで悪くない。


「お兄ちゃん無事で良かった! ただ遠くにいたせいでお兄ちゃんの勇姿全然見れてないよ」


「大丈夫。それは私がしっかり見ておいたから。後でアインちゃんにもたくさん話してあげるね」


 そして次々とヴィークを讃える声が上がる。一斉に沸き起こるヴィークコール。流石にこれは恥ずかしさが勝ってしまったようだ。


「被害は大きくはないですけど壊れた家とかは修復しないと。復旧は早い方がいいでしょう」


「そうですね。こうもしていられません。でもヴィークさんはもう休んでください。これ以上ヒーローを働かせてはバチが当たります」


 そこまで言われては仕方ないのでヴィークは大人しく休むことに。アインとアリスはお手伝いに行くらしい。


「やっぱり俺の加護が力を貸してくれたのかな。アリスの発言もあるしその可能性もあるか」


 いろいろ考えてみるが結局どうだったのかはわからない。火事場の馬鹿力という言葉もあるしそんな感じなのかもしれない。


「それに俺がそんな魔法使ったからってな。今さらあのアンデットの軍勢と戦うわけでもないし。ただアインとアリスを守れたのは嬉しかったな」


 あの笑顔のためならどんなことでも頑張れる気がする。それだけ2人の笑顔はヴィークにとってかけがえのない尊いものだった。




 ◆◆◆





 日が傾き空がオレンジ色に染まった頃、サムの家の前の広場では村人総出で料理などを持ち寄って宴会というかなんというかお祭りのような感じになっていた。


 復旧は思った以上に早く終わったので明日予定通り村を出発する3人に送別会という名のお祭りが開かれていたのだ。


「ヴィークかっこよかったらしいな! アリスちゃんが村のみんなにそうやって言い回ってたぞ」


 自分がいない間にすごいスピードでヴィークの武勇伝が語られていた。今もあちらこちらでヴィークの話が聞こえる。


「アリスちゃんお疲れ様! これで花嫁修業は見事合格です!」


 次に背後から出てきたのはスカーレット。そして右横には娘のユリン。そしてユリンの手を握っているスカーレットの夫のウール。手には料理の入った小皿を待っていた。一家そろっての登場だ。


「あとは自分の気持ちをぶつけるだけだね。ってこれはハードル高いかな?」


「そんなことありません! 私はいつでも全力で頑張るだけです!」


「おっ。その意気や良し。大丈夫大丈夫。絶対アリスちゃんは幸せになれるから」


「はい! 絶対幸せになります!」


「じゃあ私たちはちょっと村長のところに行くから」


 手を振るスカーレットとユリンを見送る。2人じゃない。こうして村の笑顔を守れたんだとヴィークは実感した。


「ヴィークさん、あの時は本当にありがとうございました。もうしばらくしたらここを出発されるんですよね。妻と娘が寂しがっていました」


 そう言って深々と頭を下げるのはスカーレットの夫のウール。ヴィークがこの村に来た時に毒にやられて死ぬところだったのを助けて以降、何回もこうやってヴィークにお礼を言っている。命の恩人で感謝してもしきれないという。


「はい、もう2,3日したら出発します。こちらこそ今までありがとうございました」


 ヴィークもウールのように頭を下げると2人もならったように「ありがとうございました」と言って頭をさげた。


「ふ、3人ともやめてくださいよ。なんだかしんみりしちゃうじゃないですか。今日は2人のためのお祭りなんだからもっと騒がないと」


 確かに周りはうるさいほど騒いでいるが祭りの主役が大人しい。でもこれには明白な理由があった。


「だって恥ずかしいでしょ!? こんなことされたら。こんなの初めてですよ!」


 そう。単純に恥ずかしかったのだ。自分がどれだけ頑張ってもここまで大事にされることはなかったから。

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