第33話 戦いのあと

「ヴィークくん!?」


 アリスはヴィークが倒れた瞬間に隠れていた場所から飛び出してヴィークのもとへと向かった。


 自分でもこんなに速く走れるのかと思うほどアリスの脚は速く動いた。それだけヴィークのことが心配だったのだ。


「ヴィークくん! しっかりして! どうしちゃったの!」


 倒れたヴィークを抱き寄せ大きな声で安否を確かめる。何かあった時のたまに右手に回復系の魔法を発動させた。


「ってあれ? ヴィークくんちゃんと息してるし……まさか寝てるだけ?」


 よく落ち着いてヴィークを観察する。規則正しい吐息とやり切った感のあふれる顔が見てとれた。


「ふぅ。良かった。これから心配はいらないかな。ただこのままだと体勢が辛いだろうから私が膝枕してあげようっと」


 ちょっとアインに申し訳ないなとが思うけどこれは抜け駆けとかではなく、すごく頑張ってくれたヴィークに対してありがとうお疲れ様などと言った感謝の膝枕なのだ。


 全然抜け駆けとかこの気に何かしようとかそういう気は一切ない。はずである……


「それにしてもヴィークくんかっこよかったなぁ」


 ヴィークの寝顔を見ながらアリスが呟く。そしてそのままヴィークの髪をそっと撫でた。


 起きた時はサラサラだったけれど今は汗でしっとりと湿っている。それだけ大変だったのだ。


「それに四重魔法だよ? ヴィークくんもしかしたら人類で初めて使った人かもしれないよ」


 聖女アリスには魔法に関する教養もしっかりある。ヴィークが使った魔法がどれほどすごいものなのかは身体が震えるほどわかっていた。


(でもヴィークくんはだからってすごいすごいって恐れ慄かれるのは嫌だもんね。でも私の祈りが届いてくれていたら嬉しいな)


「んっ……ん……? ってア、アリス!?」


 目を覚ましたヴィークはびっくり。目を開けた瞬間アリスの可愛らしい顔が視界いっぱいに広がっていたから。


「あ、ヴィークくん起きたんだ。大丈夫? すごかったね! ヴィークくんかっこよかった!れ


 本当はもっとヴィークの寝顔とか眺めていたいしこうして膝枕もしていたい。ヴィークのかっこいい姿をこれでもかと語りたい。


 でもそれをグッと堪えてまずはヴィークの身体の心配を優先する。


「ヴィークくん堅牢なる城壁ドゥロムラーラ使ったでしょ? そのあと攻撃魔法使ったあと倒れちゃったの」


「そういえばあの後力が抜けたような感じになったような。あんまり覚えてないけど」


「多分身体中の魔力がなくなってしまったからだと思うの。ごめんね。私の力じゃ魔力を分けたり新しく生成は出来ないの。休んだら元に戻ると思うから」


「そうなんだ。ごめん。まだちょっと身体がだるいからこのままにさせて欲しい」


「それくらい全然良いよ! もっと私の方にくっついてくれても良いんだから」


「ちょっとそうさせてもらおうかな」


 アリスの身体の方さらに自分の身体を寄せる。それと同時に温かくて柔らかい感触と甘いく優しい香りが漂ってくる。


「アリス……おやすみ……」


 もっと聞きたいことはあった。アリスに魔力とかを分けるような力がないのならどうしてあの時魔力が凄まじいほど上がったのか。あの魔法は一回きりなのかなどなど。


 しかしそれは後で考えよう。ヴィークは睡魔には勝てなかったようだ。

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