第9話 3人で夕食

しばらくしてヴィークたちの前に料理が並んだ。


「おお。とっても美味しそうお兄ちゃん。私の作ったスープ飲んでみて」


「おお。いただこうかな」


「どうかな?うまくできてる?」


アインが不安そうに聞いてきたが不安になる心配なんて1つもない。めっちゃ美味いから。


「美味しいよアイン。上手くなったな」


「うん!えへへ。お兄ちゃんに美味しいって言われて嬉しい!」


「かわいいやつめ!」


ヴィークもそう言ってアインの頭を撫でる。嬉しそうにしている顔がまたとてもかわいい。


「むぅ〜。今回は仕方ないけど次は私がヴィークさんとイチャイチャするんだから」


2人には聞こえないくらいの声でアリスが悔しそうな顔をするがアインはヴィークに夢中で全然気付いていなかった。


「俺の作ったやつはどうかな?」


ヴィークが作ったのは鶏肉と野菜のクリームパスタ。勇者パーティーのときはあんまり手間のかかるものは作れらなかったけどヴィークの中で1番うまく出来る料理だ。


「美味しいよ!お兄ちゃん。お兄ちゃんの手料理最高だよ!」


「ヴィークさんのすごく美味しいです! パスタとうまく絡んで。そして手作りってところが最高です!」


「そうやってアリスさんに言われて俺も嬉しいです。お口に合ってよかった」


元聖女のアリスはかなり良いものを食べていたに違いない。庶民の料理で満足して貰えるか不安だったヴィークはホッと肩を撫で下ろした。


と、それに気づいたアリスがむぅとヴィークを見る。


「私はそんな贅沢な生活はしていません。皆さんと同じような食事をとっています。そんな風に思われるのは心外です」


「す、すみません。つい聖女さまも王たちと同じような食事をとっているものだと思っていました」


「許して欲しいですか?」


「え?」


「このままでは私はずっと不機嫌なままです。なので私のお願いを1つ聞いてもらいます」


アインとヴィークは一瞬「めんどくさい」と思ったが、これから一緒に過ごす仲間だしアリスは基本はそんな人じゃないだろうとお願いを聞くことにした。


「ヴィークさんと私は同い年でしょう? ですのでこれからはこんな堅い言い方はなしで。私はヴィークくんと呼ぶのでアリスと呼び捨てにしてください。タメ口で喋りましょう。アインちゃんもね」



有無を言わさないよと無言の圧を放つアリスにヴィークはダメとは言えなかった。


一方アインはこのめんどくさいアリスの言動がヴィークともっと親しくなる為の作戦だったと気づいてアリスを睨むがもはや手遅れだった。


そして3人で食事を進めていく。


「あ」


楽しい食事をしていたらヴィークの目から何故か涙が出てきた。理由が分からない。


「お兄ちゃん、どうしたの?何かあった?」


アインとアリスがヴィークを心配そうに見つめる。ヴィークも今動揺していた。涙? そんなものいつぶりだろうか。というかなんで泣いているんだという疑問があふれてくる。


「お兄ちゃん?」


「え、ご、ごめんアイン。変だな。悲しくないのに涙が出るなんて」


理由が分からない。さっき食べた山菜に変なものが混ざっていてのだろうか。そう考えて不安になるヴィーク。


「お兄ちゃん嬉し泣き?」


「え? アインの言っていることがよく分かんないな」


「だってお兄ちゃん泣いてるのに顔は笑顔で笑ってるから」


あぁ、そうなのかも知れない。アインの言葉がスッと入って来た。そうだ、ヴィークは嬉しかったんだ。自分が作った料理を褒められて。最近はそんなことなかったから。


いつもの味気のない食事とは違う。こうして会話をしながらの楽しい食事。


「俺はさ、嬉しかったんだ。自分の作った料理を美味しいって言ってアインとアリスが笑ってくれたのが。アインと離れてずっと一人だったし、アリスも俺にすごく優しくしてくれるし……」


「お兄ちゃん…私もすっごく嬉しかったよ!またこうして二人でご飯食べれて。それに今日のご飯はいつもよりとっても心が温まるの……それでね、私もお兄ちゃんをもっと笑顔にしてあげたい!」


アインは拳を挙げてそう宣言した。


「私もヴィークくんをもっと笑顔にする!」


「2人ともありがとう」


こうして楽しい食事はゆっくり終わっていった。






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