第10話 さぁ寝ましょう!

「「「ごちそうさまでした」」」


ヴィークたちは晩ご飯を食べ終わってテントの傍にあった大きな岩に座ってゆっくりしていた。寝る前のおしゃべり会にみたいな感じでお互い別々の掛け布団を羽織って今日一日のことを話していた。


「今日は今までで1番楽しかった。お兄ちゃんとずっと一緒だったし。こんなに一緒に居たのすごく久しぶり」


「そうだな。俺も楽しかった。これからはこんな楽しい生活が続いていけると良いな」


ヴィークが目指す生活はただアインと幸せに生きていくこと。それはアインも同じだ。まだ具体的に考えていることはないけど贅沢をしたり、面倒ごとに巻き込まれたくはないと思う。ただ慎ましく平穏に暮らしていきたい。


「大丈夫お兄ちゃん。私は絶対お兄ちゃんから離れないからね」


アインはそう言ってヴィークの手をぎゅっと握った。


「私も突然の参加になったけど新しいことがたくさんあって刺激的だったな。とっても良い思い出になるよ」


「まぁアリスはほんと急だったけど。聖女の加護とかはどうなってるの?」


「今も私に発現しているよ。本当にわがままだとは思うけど大人の良いようにされるのがもう嫌だったの。結婚相手まで勝手に決められそうになってて。好きな人と結婚させろ! って話だよね。聖女って元々そんなに力がある訳じゃないし。広範囲にちょっと回復魔法使えるだけだもん」


「アリスちゃんそれ聖女様全否定みたい」


「でもそれくらいの魔法なんてヴィーク君でも簡単にできるでしょ?」


「確かによく使う魔法ではあるね。でもよく俺が使えるって知ってたね。アリスとは全然会ったことないのに」


「ギクッ」


ヴィークは単にちょっと疑問になったことを口に出しただけなのだけどアリスの心臓は跳ね上がるほどドキッとした。


(い、言えない。実は自分の時間には魔法の鏡でヴィーク君をよく見ていたなんて)


「ジーッ」


(アインちゃんすっごく疑いの目を持ってるよ。ここは誤魔化さないと!)


「そ、それくらい聖女として知っていて当然です。聖女とはそう言うものなのです」


「へー。そういうものなんだ。私、聖女とかよく分からないから」


「俺も聖女さまが何をしていたかとかよく考えると全然知らないなぁ」


ここは運良く聖女のとこを2人が良く知らないということでこれ以上追求されることはなかった。


しかし、アリスはここであることに気づく。


(あれ? 聖女としての私も全然知らないってことは私に全く興味がないのでは? これって思っていた以上にアインちゃんとの差があるってこと?)


その事実に気づいてかなりショックを受けるアリスだった。



◆◆◆



「それじゃもう寝ようか」


「うん」


夜も更けてきた。灯も焚き火の火だけだ。テントに入っても3人はいろいろ話していたが流石に寝ることにした。


「防御障壁」


ヴィークは左手を広げて魔法を唱える。こと魔法は発動させると徐々に魔力を消費するが高い防御力と1度発動させると無意識化でも発動し続けるという高性能な魔法だ。


でも、他の魔法と併用出来ない難点もある。なのでアンデットとの戦いでは重宝されなかった。テイト達にもよく「そんな使えない魔法覚えるな」とか罵られていた。


「やっぱり覚えておいて良かったな」


ヴィークはそう思った。無駄だのいろいろ言われてたが今こうやってアインとアリスを守れていることが嬉しかった。


アインもヴィークに守られている安心感がとてもあった。久しぶりにヴィークとこうやって寝ることが出来る。胸が高鳴るのを感じる。


「お兄ちゃん一緒に寝よっ!」


「え?」


男女で一応テントを分けておこうとヴィーク1人とアリスとアインで分かれたはずなのに。そして布団はないけれど、薄い掛け布団を2つ買っておいたのでそれをそれぞれかけて寝ようと思っていたのだが...…


「んしょ、んしょっ」


アインは勝手にテントに入って自分の掛け布団をポイしてヴィークの布団の中へ入っていった。


「お兄ちゃんって本当にあったかいね」


「しょうがないなぁ」


「しょうがなくありません! 何ちゃっかりアインちゃんそんな特等席ゲットしてるのよ! それはずるいでしょ!?」


「ざんねーん。これは早い者勝ちでーす。今日はアリスちゃんはあっちのテントで寝てね〜」


「そんな横暴はダメ! 私もヴィーク君の横で寝る! こっち側空いてるから!」


「ちょっとアリス!?」


最初はヴィークも抵抗しようとしたがアインとアリスが絶対寝るもんと言うことを聞かなかったので最終的にヴィークが折れた。


今のアインは17歳。ヴィークとアリスは18歳。こうやってくっつかれるとヴィークもいろいろ思うことがあるようで。


しかし、それはヴィークだけではなかったようだ。


(ん〜!思い切ってお兄ちゃんと寝ようとしたけど緊張しちゃうよ〜!でも、ほんとに嬉しいな)


「アイン、じゃあ寝ようか」


「うん!!」


アインはそう言ってヴィークに抱き着いた。久しぶりの感覚。大好きなヴィークの温もりをすごく感じることが出来る。本当はずっとこうしていたかった。その反動でか、前よりも余計にヴィークにぎゅ〜っとしてしまった。


(えへへ、お兄ちゃんにこうやって抱き着いて寝られるなんてさいこうだなぁ)


アインは幸せ気分の中夢の世界へ入っていった。


(こうして一緒に寝ることができるなんて。私もう最高過ぎてこのまま死んじゃうかも)


アリスもそれは同じだった。


(これじゃ寝れん!)


その夜ヴィークはドキドキしっぱなしでなかなか寝ることが出来なかった。ただ、そのおかげでアインとアリスかわいい寝顔を見れたのは誰にも言えない秘密。


そっと頭を数回なでたのも秘密だ。頭をなでるたびにアインの顔は「にへ~」となってこれのせいでさらにヴィークが寝付けなかったのももちろん秘密。


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