第22話 ほのぼのしてます
「ふぅ。ごちそうさま。すごい美味しかったよ」
「やった! ふふふ。お兄ちゃん次はもっとすごい料理作っちゃうからね」
さて、次は何を教えてもらおうか考えるアイン。もう次の献立のことで頭はいっぱいらしい。
ちなみに今の料理はすべてコルン村で採れたものだ。湖の魚に畑で収穫した新鮮な野菜。王都で売られているものより遥かに美味しい。採れたものを新鮮な内に食べる。それが食材が一番美味しいに決まってる。
いつも王都で採れた良いものを食べていたアリスですらコルン村産の方が美味しいと言うくらいだ。
「さて、美味しいごはんも食べたし俺は畑の作業を手伝おうかな」
「え? お兄ちゃんを魔法の修業じゃないの?」
それがそうともいかないのだ。サムも一日中魔法の修業だけをするほど時間があるわけではない。村長としての仕事もあるし、ヴィークが言った畑の作業もサムの仕事の一つだ。
「さすがに一か月魔法を教えるだけじゃ申し訳ないからな。俺も手伝ってくるよ」
「ならアインちゃんも食器片づけ終わったら一緒に畑行ってみようか」
エルがアインに気づいてと目配せする。
(あ、そう言うことか! 午前中はお兄ちゃんと一緒に居られなかった分、今からは居たいもんね)
エルの考えをくみ取ったアイン。この短期間でこんなことが出来るくらい仲を深めたということか。それにエルもかなり気が利く人らしい。
「じゃあお兄ちゃん、後で私たちもいくね」
「分かった。じゃあ先に行ってるから。後片付けはお願いしていいか?」
「うん、任せて。しっかりやっておくから。いってらっしゃい」
「アリスちゃん。畑に行って野菜を収穫するのも私たちの大切な家事の1つだから後で行ってみようか」
「是非そうしましょう!」
こうしてアリスまでもが畑に来ることが決まった。もしかしたらこのコルン村の畑史上1番のイベントかもしれない。
そしてここでアインとエル。アリスとスカーレットというペアが出来上がりヴィーク獲得のために動くことが確定したようだった。
◆◆◆
「すごいですね。こんなにたくさんの種類の野菜とか。これ全部サムさんたちが作ったんですか?」
今、ヴィークはサムと畑に来ている。ただ、その規模が大きすぎて畑と呼ぶより農場と呼んだ方がいい感じがする。それくらい広い。「ちょっとお手伝い~」的な感じできたらこの広さに絶望するだろう。
「そうだけど違うかな。この畑は私の畑じゃなくて村の畑なんだ。ここの畑は私以外にも男手が20人ほどいてね。みんなでこの畑を管理してるんだ」
なるほど。確かに休憩所みたいな小屋には何人か人が見える。
サムが言うにはこういう風に狩猟班とか漁業班とかに男子は別れて食料を作り、得た食料は村のみんなに平等に配るらしい。女性陣もいろいろすることがあるんだとか。
とにかく村は一つのいざこざなく運営できているとのこと。王都みたいにお金お使わないでこうやって村が運営できるなんてヴィークからしたら驚きだ。
平等。この言葉は王都でも勇者パーティーでも存在していなかった。一見平等そうに見えてもアインのような人や、飢えを凌ぐので精一杯な人も多くいた。街の中で酔っ払っていられるのも一部の人間だけだ。
「それじゃあヴィークさんも私たちと頑張りましょう。朝のうちに野菜の収穫をしているので今からそれを村の広場に運んで、そのあとで水を湖から汲んできて今日はおわりです」
「え? ほんとですか? かなりきつい気が……」
村の広場までだいたい1キロ。湖まではそのあと坂を下って500メートルほど。それを何往復も。かなりの重労働。
「あの……身体強化の魔法は……」
「もちろんダメですよ」
ちゃんと聞く前に却下。そしてその直後、優しい声で言った。
「アインさんもアリスさんも来るんですからヴィークさんが自分の力で頑張ってるところを見せてあげましょうよ。その方が彼女も喜ぶでしょう」
「そうでしょうか。へばってかっこ悪いところを見せてしまうかも」
「心配いりません。大丈夫です」
好きな人の頑張ってる姿を見たいという気持ちがサムには分かったが鈍感で乙女心が分からないヴィークはサムがなぜここまで断言できるのか不思議だった。
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