第24話 みんなの前で

「はぁ、はぁ。疲れた。きつすぎる。やっとれん」


「まだまだ半分くらいしか終わってないですよ。もっと頑張りましょう」


 15リットルくらい水の入った桶を持って坂を上るヴィーク。もうゼイゼイだった。ふつうに身体能力は高いヴィークだが何日もまともに運動してないとこうなるらしい。それに対してサムや他の男たちは慣れた様子で桶を運んで行った。


(魔法さえ使えればなぁ。こんなの余裕なのに。いや、いつも魔法に頼りすぎた。基礎体力をもっとつけないといざという時困るのは自分だ)


 何か力仕事する場合身体強化の魔法をよく使っていたので、重いなんて感覚は久しぶりだ。こんなにゼイゼイいうことも。身体を鍛えるのはかなりの時間がかかってもその逆はあっという間ということらしい。


 ただ、これ以降ちゃんとトレーニングはしようと心に誓ったヴィークだった。理由は簡単だ。魔法しか能がないとアインとアリスにに言われるのが嫌だったから。2人ともそんなこと思うはずがないのに。


「ふぅ。なんとか一往復か」


 額に汗をかきつつヴィークは桶の水を畑の近くのため池に流しいれた。


「お疲れ様です。慣れるまでは大変でしょう。さぁどんどんいきますよ!」


「ちょっと休憩を……」


「そうですね。少し休憩しましょうか」


 ここで一息。さっき何人かいたあの小屋で一緒に作業する仲間たちと軽くおしゃべり会が始まった。話はヴィークのことで持ち切り。助かりそうにないユリンのお父さんを一瞬で治したとか可愛い彼女がたくさんいるとか。


 そんな真実とデマが飛び交う。ここにいるみんながそれなりにそんな情報を知っているという事は村のネットワークはどれだけ高速なんだ。


「ヴィークさんみたいな人が勇者パーティーとしてアンデットと戦われているのでしょうね」


 話仲間の一人がさりげなく言った一言。しかし、ヴィークにはクリティカルヒットの言葉だった。


「そうだなぁ。俺は見たことないけど、勇者を筆頭にかなりの精鋭がいるんだと」


「らしいな。そういえばヴィークさんは王都から来られた旅人ですよね。勇者とかって見たことあるんです?」


「え? あぁ、勇者の加護はかなり強力なものですよ。アンデットが何体いても倒せるくらいに。ただ、今の勇者はかなり性格に難ありですけど。酷いものでしたよ。毎日大変でした」


「へぇ。ヴィークさんかなり詳しいですね。もしかして一時勇者パーティーのメンバーだったり?」


「そ、そんなわけないじゃないですか! 俺なんかが前線で戦えるわけないですよ。もし、戦えるなら今ここにいないですから」


 勇者パーティーのメンバーだったんじゃないかと言われてドキッとしたヴィーク。もし、そうだといったらなんて反応されるだろうか。平穏に暮らしていきたいヴィークはやはり、これだけは言えなかった。


 ただ、ヤヴォスの言っていたことが気になる。「あのお方」とは何なのだろうか。今のヴィークには関係ないと思っていたが、よく考えたらヤヴォスはいるはずのない人類の地にいた。「あのお方」の力で復活したとか言っていはず。つまり、今はどこでアンデットと遭遇してもおかしくない。


(少し警戒しとかないとな。アインといられるってことで浮かれてたけど俺がアインを守るんだから。もし、そいつと対立するなら俺でどうにかできるだどうか。ううん。アインといるためにどうにかするしかない。アリスだって俺のことを信用してくれてるんだしな)


「さて、そろそろ休憩も終わって仕事の続きをしましょうか」


「サムさんもうちょっと休憩しません?」


 よほど疲れたのか更なる休憩を要求するヴィーク。今さっきかっこいいことを決意したばかりなのに。それに本当にお手伝いとして役に立っているのか疑問である。


 しかし、ここでヴィークの考えを180度変える救世主が現れた。


「お兄ちゃーん」


「ヴィークくーん!」


「さあどんどん行きましょう休んでる暇なんてないですよ!」


「変わり身早すぎですよ……」


 2人の姿が見えた瞬間さっきまでの疲れたそぶりはどこへやら。2人による体力チャージでやる気に満ち溢れたヴィーク。その姿に先ほどまでの感じは見受けられない。ちなみにこれは魔法ではない。


「お兄ちゃんどう? お水運ぶの大変でしょ?」


「いいや、全然大変じゃないよ。楽勝楽勝。何往復でも行けるよ!」


「お兄ちゃんかっこいい!」


「ヴィークくん男らしいね。こういう汗水流して頑張ってる姿ってドキドキするよ」


 ヴィークの後ろではさっきまで喋っていた男たちが「あれが彼女か」とか「めっちゃ可愛い」とか「まじで2人いるんだが。こいつこんな可愛い子2人も侍らせてるって前世でどんな徳を積んだんた」とかいろいろひそひそと言っている。


 その声が聞こえたアインはすごく機嫌を良くしてヴィークの腕を取った。アリスもアインと同時にヴィークの腕を取る。それと同時に「おぉ~」という歓声が上がる。


「ちょっと2人ともみんな見てるから。それに作業ができないな」


「今まで作業頑張ったご褒美なのです」


「そうそう。ヴィークくんにもちゃんと頑張った分のご褒美あげないと」


 そんなに大したことはヴィークはしていないのだが。しかし、2人にそんなことは関係ない。こうやってくっつく機会が出来たのでそれを有効活用しただけ。


 その光景を微笑ましく見る人もいれば、羨ましそうに見る人もいた。こんなところでイチャイチャしやがって! という意見の方が多かったようたが。


 もう一度確認しておくが、ヴィークは誰とも付き合っていない。まだ、の話ではあるが。さて、ヴィークとアイン、アリスの関係はどうなっていくのやら。




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 こんばんは九条けいです。今年もいよいよ最後ですね。皆様ありがとうございました。来年も頑張ります! よろしくお願いします!

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