第29話 お披露目

「アリスちゃんここまでマスターするなんて私びっくりしたわよ。これならもう私の教えることはないわね。あとは自分の気持ちをしっかりぶつけるだけよ!」


「えへへ。ありがとうございます。これもスカーレットさんのおかげです」


 スカーレット宅でアリスは最後の修行の試験を受けていた。そして結果は見事合格。完璧に家事をこなすことができるようになっていた。


「明日には出発なんだよね。寂しくなっちゃう」


「私も寂しいですけどヴィークくんと一緒に行くって決めてるので……でもまた会えますよね」


「そうね。ってそんなしみじみしちゃダメよ。これは門出なんだから。さぁ今日はもうお昼でおしまい。みんなに挨拶しておいで」


「はい、行ってきます!」


 こうして村のみんなに挨拶をしにアリスはスカーレットの家をでた。


「ほんと可愛い子ね。アリスちゃん。幸せを願ってるわ」



 ◆◆◆



「エルさんありがとうございました。これだけ沢山の料理覚えれて。これからもお兄ちゃんに喜んでもらえるようにいろんなの作れるように頑張りますね」


 エルの家でもアリスと同じようなことになっている。アリスもアインも感謝でいっぱいだ。



 ◆◆◆



 そして夕方。今からサムの家の庭で最後にどれだけ魔法を使えるようになったか披露することになっている。


 1か月しか日にちがなかったので高度なものは全然教えることが出来なかったが、それでも王都ではなかなかと言われる程になったとヴィークは確信していた。


「それじゃユリン、教えたやつをやってみて」


「うん……」


 今日はいつもの修業メンバー以外にスカーレットやアイン、アリスも見に来ている。そのせいかユリンは緊張していた。


「ユリン大丈夫。深呼吸して……さぁまずは光から」


 落ち着いたユリンは魔力を指先に集中させぽわっと指先を光らせた。最初は小さい光だったものが徐々に強くなっていく。そして松明くらいの灯りになった。


「よしっ。ヴィークお兄ちゃん出来たよ」


「うん、しっかりできてるよ」


 ヴィークはいつも見ていてそんなに心情に変化はなかったが、初めて自分の娘が魔法を行使している姿を見てスカーレットはいろいろ思うことがあったようだ。


「ユリン……すごいわ。こんな凄いことを1か月で出来るようになるなんて。ヴィーク君もありがとう。今度から夜はユリンに頼んで照らしてもらおうかな」


 娘の成長を感じられたようでかなり感動している。アインも「すごい……」と感嘆も声を漏らしてユリンも見つめていた。光という魔法適正さえあればほぼだれでも使えるような魔法なのに。


「でもまだまだだよ。ヴィークお兄ちゃんには他の魔法も習ったんだよ」


 得意そうにそう言うユリンは光を解除し次の魔法を唱える。これがユリンが20日かけて出来るようになった魔法。


「でも見せてあげたいんだけどこれは今はできないんだ。これはそのときになったら見せるから」


「へぇ何を習ったの? 少しだけでも教えて欲しいな」


「ユリンとサムさんに教えてたのは……」


「それはユリンに言わせて。サムさんもいい?」


 サムもいいよと言ったのでふんっと鼻を鳴らして自慢げに言った。


「ユリンたちは治癒魔法を教えてもらったの。簡単なやつでもなかなか出来なくてすごい時間かかっちゃった」


 2人がヴィークから習ったのは二重魔法の治癒スーペリアトラタミエント回復レクぺラールの上位に位置するものでかなりいろんな傷や病気まで治すことができる。


 王都とかではこの魔法を習得して病院を開業できるくらいで難しく使える人が少ない魔法だ。これを1か月かからず習得できた2人はかなり魔法適正が高くセンスが良かったといえる。ヴィークもかなり驚いていた。


「サムさんは分かるけど、ユリンはどうしてこれを習ったの? 魔法って派手なのもあるらしいからもっとそういうのを教えてもらうのかと思ったよ」


「確かにそういうのもいいなって思ったんだけどね」


 ユリンがぽつぽつと喋り出した。


「お父さんをヴィークお兄ちゃんが救ってくれたでしょ。それで出来る事なら私もそういう人を救えるような村のみんなを助けられるような魔法を教わりたかったの。無理なら他のをって思ったけど」


 そのユリンの目はスカーレットが知っているのほほんとした目ではなく、しっかり覚悟を持った目をしていた。ヴィークが村の人の前でユリンのお父さんを助けるために使った魔法は一人の少女に強烈な印象を与えたのだ。


「ユリン私の知らないところでそんなに成長したんだね。よく家でもヴィーク君のこと喋ってたけどもしかしてユリンもヴィーク君のこと好きなの? そっちも成長ちゃった?」


 ニヤリと笑うスカーレットにいち早く反応したのは当事者のユリンではなく、今までそんなに存在感を出さなかったアインとアリスだった。


「ユリンちゃんお兄ちゃんを狙ってるの!? もしそうなら正彼女の私と勝負だよ。絶対負けないから!」


「こら! 誰が勝手にそんなこと決めたのよ! そんなの決まってないでしょ! 私だって負けないから」


 恋のライバルが出来たと思ったアインは闘志むき出しでヴィークは渡さないと宣言した。アリスも同じようにアインと同じように宣言。


「そ、そうじゃないよ! ただ新しいことをたくさん教えてもらったのが楽しくて嬉しかっただけ。2人から取ろうなんて考えてないよ」


「それならいいんだけど。でもユリンちゃん立派な大人になりそうだね」


「それはそうだね。すっごく良い女の子になるね」


 ライバルじゃないと知った瞬間いつもの調子に戻った。その場にいた全員がびっくりするくらいに。


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