第37話 また3人で

「もうお昼だし降りてエルさんからもらった弁当食べようか」


「うん。とっても楽しみ。私エルさんがお弁当作ってくれてたの気づかなかったんだよね。だから何が入ってるか分からない」


「そういえば私はスカーレットさんからお菓子もらったよ。3人で食べてって」


 ヴィークは川の近くに降りた。飲み水を確保しつつ景色もいいのでなかなかいいチョイスだ。


「よッと。お疲れアイン。アリスも。ちょっと水汲んでくる」


「あ、待ってよヴィーク! 私も一緒に行く!」


 少しの時間も離れたくないアインは急いでヴィークの後を追う。言われた薪探しを放って。追いついたら樽を持ってない方の手を握る。


「ちょっとアイン。薪は探したの? 川の水は沸騰させないといけないんだよ。だから薪がいるんだけど」


 川の水はどれだけきれいに見えても安全のために一回煮沸消毒する。時間がなく切羽詰まった状況ならそんなこと言ってられないが、時間に余裕があるならした方がいい。


 ヴィークは実際に一度これでお腹を壊したことがあった。もう二度とそんなこと起こらないように安全には最善を尽くすようになったのだ。特に今は女の子もいることだし。


「それは分かってるよ。でも知らない場所で別々に行動するのは危ないでしょ? だからこうして手を繋がないといけないし一緒にいないといけないの。アリスちゃんは魔法使えるし大丈夫」


 上目遣いでそう言うアインにヴィークはダメとは言えない。自分のしたいことをもっと言っていい。そう言ったのはヴィーク本人だし自分と一緒に居たいって言われるのはこの上なく嬉しい。アリス1人なのは可哀想だけど。


「アインがそうやって言ってくれるなら、俺も少しわがままなことしていいかな」


「えっ?」


 ヴィークは手を繋いでいる左手を離してアインの肩を抱き寄せた。さっきとは比べ物にならないくらいお互いがくっついている。ほのかに甘い香りがヴィークの鼻孔をくすぐった。


「あわわわっ! ヴィ、ヴィーク!? どうしたの?」


「ど、どうしたもこうしたもないよ。こういうことしたい気分だったからさ。アインがこうして素直に言ってくれるから俺も少し、したいことさせてもらおうかなって。急にしたのは誤る」


「それはいいの。ちょっとびっくりしただけだから。えへへ。こうしてくれるの嬉しいな」


 そしてそのまま川へ向かって行った。ただヴィーク少し積極的ではないだろうか。




「すごい川の水澄んでて綺麗。あっ、大きな魚いるよ」


 幅5メートルくらいの川には水がゆっくり流れて魚が元気よく泳いでいた。


 ヴィークは樽に水を汲むと腰を下ろし、そしてふぅと息を吐いた。


「そうだアインお昼ご飯食べたら魚釣りしてみようか。アリスも誘ってさ」


「え? そんなこと出来るの!?」


 突然のヴィークの提案に驚く。やったことないし、見たこともないのでどんな感じか分からない。王都では売られているのを見たことがあるくらいだし、コルン村では大きな網で捕ってたから。


「せっかくだしやってみよう。簡単に出来るから。これも俺たちが行こうとしてる村で教えてもらったんだよ。する場面がなかったけどね」


 アインは興味津々でヴィークの話を聞いていた。そして「やろう! やろう!」と言ったので食べ終わったらすることに。




「う~ん! やっぱりエルさんの料理美味しい!」


「そうだね。このおむすびほんとに何個でも食べれる」


「ぶー。ぶー。ぷんぷん!」


 食べやすいように作られたおむすびを何個も口へ運ぶ2人。しばらくすると空っぽになった弁当箱が。


 それはきれいに洗ってマジックボックスの中に収める。大切な思い出の品だ。


 そして一名超不機嫌な人が。それもそのはず。食べられるものを探しに行ってちょっと戻ってみるとヴィークとアインがイチャイチャしていたのだから。


 アインに逸れたらいけないとかいろいろ言い訳は聞いたけどやっぱり納得いかない。


「釣りするときは私に最初に教えてね。手取り足取り教えて欲しいな」


「釣りはそんな難しいものじゃないからね!?」





「あーあもう食べちゃったね。エルさん二食分くらいあるとか言ってたのにもうなくなっちゃった」


 それは仕方ない。だって美味しかったんだから。晩御飯からはまた3人で作っていくことになる。


「それじゃあヴィークくん魚釣りっていうの教えて」


「ちょっと待って……食べ過ぎて今動けないから……」


 ご飯食べて元気いっぱいになったアリスと逆に動けなくなったヴィーク。結局この後ヴィークが動けるようになるまでの15分間、3人そろってのんびりして過ごすことになった。

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