第19話 花嫁修行

 次の日の朝、ヴィークは山へ芝刈りに、アインとアリスは川へ洗濯に行きました。という昔馴染みのあるセリフのようなことがあるわけもなく普通に魔法の修業と花嫁修業が始まった。


 なので、三寸ばかりなる人が出て来たり、川上から桃がドンブラコと流れてくることは無い。ヴィークは庭でサムとユリン。アインとアリスは家の中でエルとユリンのお母さんのスカーレットと別々で修業することになった。



 ◆◆◆



「それじゃ、俺たちは魔法を使えるようになるために一か月頑張ろうな」


「はい! 師匠!」


「ははは、私もお願いします師匠」


「ちょっとちょっと、だから師匠はやめて下さいって言ってるじゃないですか! ヴィークでお願いしますよ」


 と、ほのぼのと始まった魔法の修業。


「サムさんは何の魔法が使えるんですか?」


 返って来た答えは回復ヒール熱伝導ウォームなど簡単なものばかり。まあ、教えてくれる人がいないのに独学で覚えたのだからすごいのだけれど。


「それじゃまずはサムさんは出来ると思いますがライトからやっていこう。でもまず魔法っていうのは……」


 ヴィークたちの修業は順調にスタートした。




 ◆◆◆



 一方、アイン、アリス、エル、スカーレットの三人組も順調に花嫁修業スタート! と思いきやアインとエルはテーブルを囲んでおしゃべりに花を咲かせていた。


 しかし、仕方ないことでもある。アインは、両親から食事以外のすべての雑用をやらされていた。なので基本的な嫁力は持っているのである。つまり、あと覚えるのが必要なのは料理くらいになる。


 だが、料理を作ろうにもまだ、朝ご飯を食べて、1~2時間しか経ってないため、お昼ご飯を作るまでこうやっておしゃべりをして時間を潰すことになったのだ。


「へぇ。アインちゃんはヴィーク君のこと大好きなんだね」


「はいっ! そうなんです! ほんとにかっこよくて頼りになって、私を大切にしてくれるお兄ちゃんが大好きなんです!」


 アインは自分の思いを素直に言った。アインとヴィークが義兄妹だということは言ってあるためエルはとても楽しそうに話を聞いたり、アドバイスをしている。


「アインちゃんしっかりアピールしてる?」


「してると思うんですけど、お兄ちゃんなかなかに鈍感で……」


 確かに鈍感かもしれないが、しっかりヴィークはドキドキしているのでアピールは成功しているといえる。


「ちょっと聞いていいかな?」


 ここでエルがアインに聞いた。


「アインちゃんは、ヴィーク君と恋人同士になりたいんでしょ? でも、今のままじゃだめなの? 私が見る限り今でもすごい仲良くて恋人同士って言われたら納得できるんだけど」


 エルの言葉には、今のままでも充分幸せでしょう? 急がなくてもいいんじゃない?という意味があった。


 確かにこれからもずっと一緒にいるということは兄妹も恋人もあまり関係ないのかもしれない。それでもアインには恋人に、今以上の関係になりたい理由があった。


「私はお兄ちゃんと約束したんです。お兄ちゃんが私を幸せに。私がお兄ちゃんを幸せにするって。でも、今のままじゃ私はお兄ちゃんにおんぶにだっこ。それじゃダメなんです。私も立派になってお兄ちゃんを支えたい。そんな私がお兄ちゃんの横に居たい」


 だから料理を覚えたり、いろんなことが出来るようになりたいんです。とアイン。そして、兄妹と恋人には決定的に違うことがある。


「それにやっぱり好きな人とドキドキしたいじゃないですか。好きって言われたいし自分も言いたい」


 そう気持ちだ。これには圧倒的な違いがある。確かに日々を送るのに兄妹でも恋人でもどちらの関係でも幸せだ。でも、一人の女の子としてのアインの夢は好きな人、そう、ヴィークのお嫁さんになること。妹ではなくお嫁さんとしてヴィークを支えること。


 静かにアインの話を聞いていた2人はおもむろに立ち上がりグッとアインの手を握った。


「素晴らしいわ、アインちゃん。そうよ! そうよね! 好きな人のお嫁さんになりたいのは女の子だったら当たり前よね!」


 そう楽しそうにいうエルだったが急に目を細めてアインを見た。


「でもそれだけじゃないんでしょ? 今スカーレットさんの家に行ってるあの子。アリスちゃんだっけ?」


「うっ……鋭いですねエルさん。その通りなんです。本当は私とお兄ちゃんだけの旅だったのにアリスちゃんが乱入して。でも悪い気はしてないんです。アリスちゃんがどれだけお兄ちゃんのこと好きかもわかりますし」


「なるほどね。2人は仲間でありライバルってこと。なら負けないように頑張らないとね! こうしちゃいられないわ! 早く始めましょう!」


 こうしてアインたちの花嫁修業が始まった。




 ◆◆◆



「こらこらアリスちゃん。これじゃあ全然拭けてないよ。こんなのじゃあヴィークくんは振り向いてくれないよ!」


 こちらはスカーレットの家。アインよりも遥かに家事力が低いアリスはアインたちのようにお喋りする暇はなく早速修業中だ。


「これなかなか難しい。みんなこんなの普通に出来るの?」


「これくらいなら子供でも出来るよ。アリスちゃんの家が複雑らしいから仕方ないのかも知れないけどね」


 アリスが聖女だったということは内緒にしてある。ただちょっと変な家だったんだと説明してた。


 それでもやっぱりアリスとアインの気持ちには気づいたらしい。さすが恋の先輩と言うべきか。


「アリスちゃん。こういう場合はこうした方が良いかも。さぁドンドンやって行くよ!」


 こうしてアリスの授業も始まったのだった。


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