第58話 カンパイ!

「やぁやぁヴィークくん。他のみんなもけっこう集まってるね」


 まだ日も明るくまだ夕方になったくらい。日が暮れると明かりが松明とかが主流のこの村ではなかなか大変なのだ。


 ヴィークの魔法でどうにでも出来るが他の人たちはそういう訳にはいかない。パーティーは日が出ているうちにやっておかないと。


「ハロルドさん。もう準備はかなり終わってますよ」


「うんうん。いい匂いもいろいろなところから立ち込めてる。お腹空いてくるよ」


 テーブルにたくさん盛られた料理を見ると確かにお腹が空いてくる。もうつまみ食いしたいくらいだ。


「みんな揃ったようだし、じゃあパーティを始めようか。今回の主役はヴィークくんとアインちゃん、アリスちゃんだからね。最初は2人に何か言ってもらって始めよう」


 ハロルドが声をかけるとガヤガヤしていた空気は無くなってみんながアインとヴィークに注目した。


 2人は真ん中へ移動し、まずはヴィークからあいさつを。


「みなさん、今日は集まってくれてありがとございます! みなさんのお陰でこんなに立派な家が建ちました! これからこの恩を返していきたいと思ってます。本当にありがとうございました!」


「私もみなさんには感謝してます。私たちを受け入れてくれて、たくさん優しくしてくれて。私はそれがとても嬉しかった。私に優しくしてくれたのは、ちょっと前までは私の横に居てくれてるお兄ちゃんだけだったから」


 そう言いながら、ちょっと前までお世話になっていたコルン村のみんなを思い浮かべる。ヴィークしか頼れる人がいなかった頃はもう終わった。今はたくさんの人が自分を助けてくれる。


「私もみんなの温かさを感じることができました。みんないい人で。これからもよろしくお願いします」


 アリスも王都のような欲に塗れた人じゃなくて本当の人の心を感じた。


「今は拙い私ですが頑張って行くのでよろしくお願いします!」


 最後にぺこりと頭を下げる。普通ならこういう時は拍手とかが送られるような場面なのに誰一人として拍手していない。


 誰もがぽかーんとした感じ。アインたちの話を聞いていない訳ではないのだが、こんなことを言うとは誰も思っていなかったから。


「あははっ! 3人ともそんな真面目なこと言わなくていいんだよ。そういうことを言ってもらえるのも嬉しいけど、もっと気楽にね」


「そうそう。俺たちは仲間なんだからさ。助け合うのは当然。そういうのを気にする必要はなし!」


「これからは私たちもアインちゃんの横にいるからね〜。あっ、1番はヴィークくんか」


 みんなが大笑い。さっきの静かだったのはどこに行った。おいおい。


「アイン。本当ここすごいだろ?」


「うんうん。私、びっくりしちゃった」


「それじゃあ仕切り直して。みなさん! 注目してください! もう何も言いません! ただカンパーイ!!」


「「「「カンパーイ!」」」」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る