笑うことなんて、絶対にしない
「……へ?」
俺の言葉に、ギャルいは目を白黒させる。
飲みかけのジュースのストローが、カランと揺れた。
「だから、俺がお前を笑うことなんてしないんだっつーの。俺をなんだと思ってんだ」
強い口調になってしまったが、俺はギャルいの目をしっかり見据えて言葉にする。
「いや、でも……あれですよ?私、才能とかなくてーーーー」
「才能なんかあってどうすんだよ?頑張ることに、才能なんているのか?」
いらない。
才能なんて、努力の理由になってない。
頑張ることに資格なんてなく、誰でも志し一つあれば誰だってできるんだ。
「負けたくない?……上等じゃねぇか。それも立派な理由だ、それでお前がここまで頑張ってこれたことは、素直にすげぇって思うぜ」
これは素直な俺の本心。
お世辞でも煽ててる訳でもない。
「いいか?努力ってのは並大抵にできることじゃない。強い信念を持って初めて成立するんだ。妥協し、折れる人間なんてごまんと存在する。その中で、お前はここまでやってきたんだ。称えこそすれど貶すなんてありえない」
努力とは、強い信念と志しがなければ成立しない。
妥協し、折れてしまう人間は沢山いる。
それは、努力し続けることが難しいっていう事を証明しているんだ。
だからこそ、努力し続けている人間はすごいんだ。
「すげぇよ。俺はお前の事をすげぇって思ってる。劣等感に苛まれたとしても、頑張り続ける俺は応援するし、手伝ってやる。それが、頑張った奴に対しての俺ができる精一杯の手出けだ」
柊夜も頑張る性格だからなぁ……。
こういう奴を見ると応援したくなるって言うか……まぁ、俺自身努力する奴が好きなだけなんだが。
「……」
何故かギャルいは目を見開いて固まってしまった。
しかも、気の所為かもしれないが、どこか顔が赤い気がする。
「おいこらギャルい。無反応は流石に傷つくぞー」
俺はギャルいの顔の前で手を振った。
すると、ギャルいはハッとしたのか、いきなり顔をそむけた。
「(な、何を考えてたの私!?危うく絆されてしまうところだったじゃん!)」
「おーい、どした急に?」
そして、何やら顔を手で覆いながらブツブツと呟き始めた。
「(私はチョロくない、私はチョロくないチョロくない……イケメンが好き、結城先輩みたいなイケメンが好きなんだから……)」
「あのー……聞いてますか?」
「(チョロいのは千歳っちだけで充分……まとも枠は私だけなんだからしっかりしないと……)」
「もういいです……」
しくしく……。
後輩に無視されたよー。折角褒めてあげたのに無視されるよー。
……帰ったら柊夜に愚痴聞いてもらお。
「と、とにかく!先輩ごときが私を堕とそうなんて100年早いんですよ!」
「何の話だ?」
いつの間に俺はお前を攻略対象に選んだよ?
そう言うのは柊夜で充分なんです。
「帰りますよ先輩!今日はごちそうさまでした!」
「あ、俺が払うのね」
焦った様子で立ち上がり、そそくさとファミレスを出ていくギャルいの後ろ姿を見て、思わずため息が出る。
いや、別に俺が出そうと思ったけどさ……何でしょう?この釈然としない感じ?
仕方ないので、俺は伝票を手に取り会計へと向かった。
……そういえば、そろそろ柊夜の親父のバイトの給料が出るんだったけか?
確か……36万?
確定申告って高校生でもするのかな?
♦♦♦
「さて、そろそろ私はお暇します」
ファミレスを出て、俺達は駅のホームまでやって来た。
終始俺に対しての罵詈雑言が彼女の口から飛び交っていたが、慣れた。右から左に受け流すムーディみたいに。
「おう、お疲れさん」
俺は額に青筋もどきを浮かべながら、ギャルいを見送る。
やっとこいつの悪口から解放されるなー。
だって聞く?「このタラシ!」とか「無駄にスペック高い残念男子!」とか「どうせ彼女なんて一回しかいなかったんでしょ!」とか言われたんだぜ?
やれやれ、最後の一つしか合っていないというのに。
「そうそう、今度から分からない事とか不安な事はちゃんと行動する前に聞けよ?ー---別に怒ったりしないんだからよ」
「……分かりました」
分かったならいいんだよ。
こちとら、好きで言いたいんじゃないからな。
人間誰しも失敗はするし、得意不得意は存在するものだ。
だからこそ、分からないなら聞いて覚えればいいし、覚えれないなら俺がサポートするから。
「じゃあ、また明日です、先輩」
「そうだな、また明日」
そう言って、ギャルいは背中を向けて駅の改札へと向かった。
……まぁ、当初の目的は達成できたかな?
これで明日は少なくともやりやすい環境になるだろう。そして、できることなら俺の仕事を減らして欲しい。頑張れ、ギャルい。
「あ、先輩!」
向かったかと思いきや、ギャルいはいきなり俺の方へと振り返った。
「今日はありがとうございました!私、少しはスッキリしたと思います!」
そして、すぐさま小走りへ再び改札へと向かって行った。
その言葉を言ったギャルいは満面の笑みで、いつものあざ笑うようなあざとい笑みではなく————
「あぁやって、普通に笑えば可愛いんだけどな……」
どうしてあの子は自分で品を落とすような行為に走るのか?
まぁ、他の男子にはかなり需要があるとは思うが……。
「帰ろ……」
そんなことを思いながら、俺も己の帰路へと足を運んだ。
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