放課後、二人っきり
「ふぃ〜、ただいまー」
初日の指導?を終えた俺は生徒会室に戻ってきた。
幸いにして、特段初日の俺の仕事はなく、このまま帰っても問題ない。
だから、麻耶ねぇと神楽坂と一緒に帰ろうとしたのだがーーーー
「おかえりなさい、望さん」
柊夜しかいなかった。
みんな、もう帰ってしまったのか、いつもカバンを置いてあるスペースにはカバンが一つしかなく、出迎えてくれたのも、資料と睨めっこしている柊夜だけだった。
「みんなは?」
「みなさんはもう帰られましたよ。こんな時間ですしね」
そう言って、柊夜は壁にかかってある時計を指さす。
時刻は丁度19時。普通の生徒なら、もうとっくに帰っている時間だ。
「あちゃ……これは大分残らせてしまったかね」
早く帰らそうと思っていたのに、こんな時間になっているとは思わなかった。
二人には、少し申し訳ないことをしたな……。
「なぁ、柊夜?あいつらはもう帰らせてもいいか?」
「えぇ、大丈夫ですよ————それに、今日は望さんの話が終われば帰っていい、と伝えてあるので、伝えに行く必要もありません」
……流石柊夜。
俺がしようとしていることを先回りして済ませておくなんて————有能過ぎる。
「お前は帰らないのかよ?こんな時間だっていうのに」
流石に、まだ日は暮れていないとはいえ、女の子が一人で帰るのは危なすぎる。
柊夜は自他共に認める美少女なんだ。普通の女の子よりも危険度は高い気がする。
それに彼氏として、危ないめに合わせるのは認められない。
「えぇ、私はまだ仕事がありますからね。新学期に入ると、生徒会長の仕事は多いものです」
そう言って、柊夜は手元の資料束をポンと叩く。
「……無理すんじゃねぇぞ?」
以前、彼女は頑張りすぎて倒れたことがある。
それを考えると、いくら仕事が残っているとは言え、無理をさせるわけにはいかない。
だから俺は、資料の束を一瞥して軽く注意する。
「しませんよ。前みたいに倒れたくはありませんから————しかし、また倒れて看病してもらうというのも、案外アリではありませんか?」
「なしだよ馬鹿野郎。そんな理由で体調を崩そうとするな」
「ふふっ、冗談ですよ」
柊夜は楽しそうに小さく笑う。
……俺としては冗談じゃなくて、本気なんだがなぁ。
「しょうがない、お前が早く帰れるように手伝ってやるよ」
俺はソファーに座り、資料を寄越せとジェスチャーする。
「いえ……本当の事を言えば、そこまで仕事は残っていないんですよ」
「じゃあ、何で残ってるんだよ?」
「それはですね――――」
柊夜は立ち上がり、いたずらめいた笑みを浮かべながら、俺の隣へと座った。
そして、俺の耳まで顔を近づけると、
「……望さんと2人っきりになる為ですよ」
「ッ!?」
耳元で優しく言葉を囁いた。
俺はほんわかとしたいい匂いと、顔が近づいたことで思わずドキッとしてしまう。
その所為で、顔が一気に真っ赤になってしまった。
「ふふっ、照れているのですか?」
「この、小悪魔ちゃんめ……っ!」
なんといたずらっ子な彼女なんだろうか?
俺をキュン死させるおつもりか?
「でも、あなたもこういう機会は欲しかったんじゃないですか?大好きな彼女と、こうして触れ合う時間が」
柊夜の柔らかい感触が腕に伝わる。
なんと、我が彼女は肩をくっつけ、あまつさえ腕に抱き着いてきたではないか。
素晴らしい。彼女ができた勇者たちは平然とこんなことをやっているのだろうか?
「離れろ馬鹿者……!」
しかし、どうやら俺にはハードルが高すぎたようだ。
さっきから心臓がバクバク言っているし、照れくさくてまともに顔を合わせることができない。
だから俺は、柊夜の肩を掴んで、優しく引き剝がす。
「いいではありませんか?あなたも、満更ではないのでしょう?」
「満更ではないし、とても嬉しく思っているのだが……すまん、俺にはハードルが高すぎる」
「情けないですね……あれだけイチャイチャしたいとか言っていたくせに」
唇を尖らせながら、柊夜は渋々離れてくれた。
……いや、本当に情けない。
俺がここまで女の子に対する耐性がなかっただなんて思わなかった。
「まぁ、あなたが女性に対して耐性がないことは分かっていましたし、別に構いませんよ————それに、そんなうぶな反応を見ていると、どことなく興奮してしまう自分がいますから」
……すまない、俺が不甲斐ないばかりに柊夜に変な性癖を持たしてしまったようだ。
「ですが、私はどんどんイチャイチャしていくつもりですので、早く耐性をつけてくださいね?うぶな反応よりも、触れ合う時間の方が好きなんですから」
「……そうだな、頑張るとしよう」
確かに、このままではあまりにも柊夜が可哀想すぎる。
俺が情けないばかりに、柊夜に我慢をさせてしまうのだから。
けど、俺だってイチャイチャしたいのは同じ。
少しばかり、頑張ってみよう――――
「……柊夜」
「何ですか————ッ!?」
その決意の表明として、俺は柊夜を正面から抱きしめる。
彼女の吐息が肩越しから伝わり、柔らかい感触も鼓動もしっかりと伝わってきた。
「……今は、これぐらいでかんべんな」
「は、はい……」
数秒か数十秒か。
それぐらいの間俺達は抱きしめあっていると、やがてゆっくりと離れる。
……やばい、さっきよりも顔真っ赤だぞ?
脳内で出血しないかな?大丈夫だよね?
「の、望さんにしては頑張ったのではないでしょうか!?」
そして、柊夜は勢いよく立ち上がると、そそくさとカバンが置いてある場所へと歩いて行った。
しかし、後ろからでも分かるほど、彼女の顔は俺に負けないくらい真っ赤にしている。
……あいつ、自分から責めるのは問題ないくせに、責められるのには弱いよなぁ。
「……帰るのか?」
俺は必死になって頭を冷やすと、努めて平静に尋ねる。
「えぇ、今日はもう遅いですし帰るとしましょう」
柊夜も、一瞬で冷静になったのか、平静的に答える。
……やっぱり、俺と柊夜ってどこか似ている部分があるよな。
「しかし、今日はいつもと違いますよ?」
「……は?」
柊夜はカバンを持ち、勢いよく振り返り、先ほど見たいたずらな笑みを向けた。
「放課後、二人っきり、帰宅時間。これだけ揃えば、後は彼氏彼女同士がすることなんて一つです————」
「さぁ、帰宅デートとしゃれこもうではありませんか♪」
最近、俺の彼女の言葉遣いが悪くなってきているような気がする。
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