生徒会の代替わり

「なぁ、そういえばうちの生徒会っていつ代替わりするんだ?」


 制服に着替え、汗を拭き制服に着替えた俺は現在生徒会室で雑務をしていた。

 肉体労働の後にデスクワーク……本当にそろそろ生徒会でも働き方改革を実施して欲しいものだ。


「いきなりどうしたんですか?」


 伊達眼鏡を外しながら、俺のいきなりの質問に首を傾げる柊夜。

 ……普段、眼鏡をしていないから、こういうギャップって可愛いよね。

 うん、我が彼女————100点!


「いやさ、新学年にもなったことだし、いつこの生徒会も終わるのかなーって。ほら、麻耶ねぇとか先輩とか受験もあるだろ?」


「あぁ……確かにそうだよね」


 そういえば、と神楽坂も不思議そうにする。


 俺達はまだいいが、麻耶ねぇと先輩はもう3年生。

 受験も控えているこの頃に、こんな生徒会の仕事をやっていてもいいのだろうか?


「私達は夏休み前で引退するよ~!」


「それからは俺達も晴れてお役御免ってわけだね」


「ふーん……なるほどな」


 夏休み前か……後3か月しかないわけだ。

 意外と間近に迫ったこの生徒会の解散時期。


「それはちょっと寂しくなっちゃうね……」


 そのことに、俺も神楽坂も少し寂しさを感じてしまう。


「と言っても、引退してからはちょくちょく顔を出すつもりだよ~!」


「ん?引継ぎとか?」


「ううん!望くんにハグするため!」


「是非毎日顔を出してほしい」


 引継ぎとか言う仕事の増量ではなく、俺を癒すためならいつでもウェルカムだ。

 遠慮なんかせず、いつでも顔を出してもらいたい。


「アリス、そこの窓を開けてください」


「分かった!」


「待て待て待て。俺の襟首を掴んでその発言には危険性しか感じられない」


 捨てる気なのだろうか?

 愛しき彼氏をこんな高さから突き落とす気なのだろうか?


「引継ぎは引退する前に終わらせるから、俺達が来るのは単なる暇つぶしだよ少年」


「暇つぶしに後輩の仕事を邪魔しに来るんですか……」


「でも、私は来て欲しいかな!寂しいし!」


 まぁ、俺も少し寂しいと思っていたからいいけどさ。

 2人なら、正直いつでも大歓迎だ。


「まぁ、先輩達が引退するときに、俺が生徒会であるとは限らないけどな」


 そう、麻耶ねぇ達が引退した時、俺はこの席に座っていることはないかもしれない。

 先輩達が変るということは、必然的に生徒会長も変わる。


 生徒会長は毎年選挙によって選出され、新しい生徒会長が柊夜の座に就く。

 会計である俺や書記のアリスは、指名制で決まったポジション。


 次回の生徒会長が西条院ではなくなったら、俺達が指名されることはないだろう。

 ……そう考えたら、やっとこの重労働から解放されるんだよなぁ。


 ビバ普通の青春!

 これで俺も放課後と言う素晴らしいイベントを謳歌することができる!


「それはありませんよ」


「何故に!?」


 俺の晴れやかな気分を、柊夜はバッサリと一蹴した。


「私が次も生徒会長をするからに決まっているじゃありませんか?」


「しかし、お前が当選するとは限らないだろ?」


「あら?私が当選しないと思っているのですか?」


 ……すんません。正直、立候補したら当選する気しかありません。


 こいつの人気は麻耶ねぇや神楽坂以上の物。

 それは1年生ながら生徒会長をやっていたおかげか。今では彼女を支持する人は大半を占めている。


 そんな彼女が立候補すれば、当選は確実だし、そもそも負け戦の為に立候補する輩がいるとも思えない。


「残業がまた続くのか……」


「ふふっ、あなたの彼女である為にも、このポジションは譲るわけにはいかないのですよ」


 どうしてそのポジションが俺の彼女と関係があるのか?

 俺は疑問に思いつつも、このただ働きが続いてしまうことにがっくりと肩を落とす。


「(麻耶先輩、ひぃちゃんってこんなところでも彼女アピールしてますよ……)」


「(望くんを渡さないって想いが伝わってくるね……)」


 2人はひそひそと何を話しているのだろうか?

 ……できれば、俺の悪口じゃなければいいなぁ。


「そういえば、今年もアレはするのかい?」


「えぇ、今回もする予定ですよ?」


「アレ……?」


 なんだその怪しいワードは?

 面倒ごとが起きそうな予感がして、すっごい嫌なんだが?


「あぁ、少年は知らなかったね――――毎年、生徒会ではこの時期に新しいメンバーを加えることになっているんだ」


「あ~!そうだったね!今年も増えるんだ~」


 ふーん、メンバー……ねぇ?


「それは誰?1年?」


「はい。毎年、生徒会では新入生の成績優秀者二名を生徒会に所属させます。もちろん、本人の意思の元所属は決めてもらいますよ?目的としては後輩育成と、代替わりの準備ですね」


「ほぇ~、そういうのもあるんだね」


 神楽坂が興味深そうにうなずく。


 成績優秀者ってことは、必然的に入試の成績の上位者だろ?

 ……うわぁ、一癖ありそうだなぁ。


 頭がいいやつって、基本堅物ばかりなイメージがあるんだよな。柊夜もそうだし。


「今回は会計補佐と書記補佐という役割を与えようと思っています」


「……会計と書記の補佐?」


 嫌な単語が2つ並んだぞおい?


「基本的会長、副会長は何もせず、会計と書記の補佐についてもらうんだよ~」


「といっても、補佐ではなく後輩の育成をしてもらうって感じだね」


 ……うげぇ。

 俺の下に誰かつくのか……すっげぇめんどくさそう。


「神楽坂……頑張れよ」


「何言ってるの時森くん?」


 不思議そうに首を傾げる神楽坂。

 いや……お前書記だろ?お前が面倒見なくてどうする?

 しょっぱなから職務放棄かね?


「実質、今の書記の仕事をしているのは望さんですよ?もちろん、あなたが面倒を見るに決まっているじゃありませんか?」



「……は?」





 また仕事が増えた。

 その発言に、俺は開いた口が閉まらなかった。

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