新入生交流会準備
「新入生交流会があります」
生徒会長の座に座る柊夜が告げた。
その言葉を、中央のソファーで生徒会メンバーが真面目な顔つきで聞いている。
本日は臨時の生徒会会議。
それ故、皆筆記用具片手にその動く手を止めている。
「新入生交流会……ですか?」
隣に座る大和後輩が疑問顔で聞いてきた。
まぁ、新入生である彼女が分からないのも無理がない。
「そういや、そんなのもあったよなぁ……」
「それって、私達を歓迎してくれるってことですか〜?先輩、歓迎してくださいよぉ〜!」
そして、反対側に座るギャルいが俺の顔を覗き込み、そのあざとい口調で俺に尋ねてくる……うざい。
「一昨日来やがれ」
「歓迎会じゃないんですか!?」
歓迎会でも、何故俺がお前個人に祝ってやらないといかんのだ。
花園にでも行って金貰ってこい。
「けど、今年は準備大丈夫なの?」
「えぇ、そこは問題ございませんーーーーと言いたいところですが、少し急がなくてはいけなくなりました」
ほぅ……?
珍しい。柊夜がスケジュール管理をミスるなんて。
いつも細やかに調整しているのに、今回の歓迎会は少し遅れてしまっているようだ。
……熱か?
「開催は一週間後。水曜日に行うことになりました」
「ちょっと待ってくれ西条院ちゃん。それは今から業者にお願いするにしても難しいんじゃないかな?」
「そこが問題なのです」
先輩の発言に、柊夜は嘆息つきながら答えた。
「本来はもう少し後なのですが、挨拶をしてもらうはずの来賓の方の予定がズレてしまいまして、どうしても早くと欲しいとお願いされたんですよ……」
「断る訳にはいかないの柊夜ちゃん?挨拶は最悪手紙でーーーー」
「いえ、来賓の方がどうしても新入生の顔を見てみたいらしく……うちの学園に多額の寄付金をくれている方ですので、あまり無下にしたくないと学長に言われたんです」
大人の裏事情に生徒を巻き込むな馬鹿野郎。
って言うか、顔が見たいってーーーー写真でも見てろこんちくしょう。
そんな愚痴が脳裏に浮かび上がってくる。
だって仕方ないだろうーーーー
「別に早めるのは構わねぇが、些か急すぎる。スケジュールとかは問題ないとしても、肝心の新入生交流会に出す料理が間に合うか分からん」
「本当に、一番の問題はそこなのです……」
はぁ、と。
柊夜は再度の溜息を零す。
まぁ、気持ちはよく分かるぞ。
この学校には千人以上の生徒が在籍している。
新入生交流会では交流という名のパーティーみたいなもので、そこでは皆に料理が振る舞われる。
ざっと考えても700人分は必要となるわけで、それを業者に頼むとなれば相当早いうちに発注しないと人員やら食料やらが間に合わない。
「という訳で、皆さんには急ぎで新入生交流会の準備をしてもらいます。少し時間が押していますが、割り振りは伝えますので、よろしくお願いいたしますーーーー」
♦♦♦
「あの……時森先輩」
柊夜がそれぞれに配分した仕事をこなしていく中、パソコンに向かって座る俺に大和後輩がやって来た。
「どうした大和後輩?」
俺は作業する手を止めて、大和後輩に向き直る。
「先輩って、今お忙しいですか?」
「そうだな……」
俺は自分にあてられた机の上を見る。
山積みになった資料に、帳簿。それにパソコンの画面には今回の新入生交流会の予算表。
……うん、忙しいな。
「忙しくないぞ」
だがしかし。
ここで忙しいと言って気を使わせるのは申し訳ない。
今回に限っては時間も時間だからアリスも仕事してるし、ギャルいも俺の横で一生懸命資料と睨めっこしている。
頑張っている中、俺だけがその輪を乱すわけにはいかない。
……例え、柊夜が鬼のように仕事を割り振ってきたとしてもだ。
「ですが……すごく忙しそうに見えます……」
大和後輩は俺の言葉を他所に、マイデスクを見て心配そうな顔をする。
……いやぁ、やっぱり忙しく見えちゃうのこの机?
「わ、私!思った以上に仕事量が少ないので手伝います!」
「そう言ってくれるのは嬉しいんだが……」
大和後輩は仕事ができる。
正直、猫の手も借りたい状況なのだが、まだ彼女は生徒会に入って日が浅い。
ここで無理にお願いする訳にもーーーー
「いいんじゃないですか望さん」
すると、俺達の話を聞いていた柊夜が話に入ってくる。
「いいのかよ?」
「えぇ、分からなければサポートしてあげればいいだけですし、大和さんは飲み込みも早いので、ここで手伝ってもらうと早く済みそうですから」
「お前が言うならいいんだけどよ……」
少し不安はある。
サポートすればいいとはいえ、時間が時間なのだ。
失敗したらそれこそ間に合わなくなる恐れがある。
……まぁ、いっか。
「じゃあ、お願いするわ。俺としても、手伝ってくれるのは助かるからな」
「あ、ありがとうございますっ!」
お礼を言いたいのはこっちなんだけど……。
このままじゃ、帰ってまた在宅ワークだったし。
「も、もし良かったら、業者に発注する事をやらしてくれませんか?……そういう仕事やってみたくて……」
「そうなの?」
おずおずと聞いてくる大和後輩に疑問に思ってしまった。
……まぁ、発注業務は会計の仕事だからな。
書記の彼女からしたら珍しくてやってみたくなったのだろう。
「いいぞ。その代わり、時間も時間だから無理にお願いするんじゃなくて、こちらの要望と相手の許容範囲を見極めてくれ」
「はい!ありがとうございます!」
俺は発注用の用紙を大和後輩に渡す。
今回は少し問題に上がった交流会の料理についてだ。
「今回は最低でも700人前を期日に間に合わせて欲しい。予算は気にしなくていいから、最低限そこだけ頼むわ。それと、最後に発注書は見せてくれ」
「分かりました!頑張ります!」
そして、大和後輩は俺に頭を下げ、少し嬉しそうに自分の机に戻っていった。
……そんなにやりたかったのかね?
「まぁ、こちらとしては助かるのだが……」
その後ろ姿を見て、俺は再び自分のデスクに向き直った。
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