新入生交流会ーーーーの前に
新入生交流会と言うイベントがある。
それは毎年新学期早々に行われる行事で、我が校に足を踏み入れてくれた新入生を、全学年で歓迎するというイベントだ。
もちろん、授業の一環として行われる為、強制参加の義務がある。
と言いながらも、実際には生徒達からの不平不満は一切耳に入らない。
何故か?
それは、授業が潰れるという目的の他に見定めが行われるからである。
見定め?
と思う人がいるかもしれないが、こんな一幕を見ていただければわかってくれると思うーーーー
『……ふむ、今年も強者が集まってきているようだな』
『しかし会長、学園三大美女を超えれるような逸材はまだ見つかっておりません』
『そうです!このままでは『全校生徒の姉』である鷺森さんがいなくなったらこの伝承が潰えてしまいます!』
『焦ることはない。まだまだ時間はたっぷりある。落ち着いてゆっくりとねっとりと可愛い女の子を探していこうじゃないか』
『『『はいっ!』』』
なんて声が上がるグラウンド。
折りたたみのテーブルを何十個も並べ、クロスを敷き、その上に豪勢な料理が置かれている。
均等に、満遍なく、皆の手が届くようにと。
そのおかげもあってか、嘆く生徒は今のところ見当っていない。
全学年総勢1000人以上。
そんな町一つ作れそうな我が校の生徒。
そんな彼らは現在グラウンドで談笑の時を過ごしていた。
細かな仕切りが学年を分けており、1学年、2学年、3学年の生徒がそれぞれ中央を向くように集められている。
ーーーー本日、新入生交流会。
前日から入念な準備に臨み、無事に今日というイベントを開くことになった。
『皆さん、おはようございます』
ざわついていたグラウンドに、凛とした声が響く。
友人と談笑していた生徒も、一斉にマイクの元へ注目を集めた。
『本日は新入生交流会。艶やかな期待と、鮮やかな未来の為にこの門を潜ってくれた新入生の方々。そして、同じ気持ちを抱いてこの門を潜った在校生の皆様が交流を深める場となっています』
中央の台座に立つはお淑やかな雰囲気を醸し出す金髪の少女。
学園三大美女と謳われ、現生徒会長である西条院柊夜。
『多少の無礼講は構いません。本日は学年関係なく、その親睦を深めていただけると、私としても、この場を設けてくれた関係者一同も、喜ばしい限りです』
そして、柊夜はグラウンドを見渡し、徐にグラスを掲げた。
『それでは皆さん。本日が良い一日であるようーーーー乾杯!』
『『『『『乾杯〜!!!』』』』』
音頭がとられた瞬間、会場の空気が一気に上がった。
シンとしていたグラウンドにも、一気に活気がやって来る。
早速新入生の元に向かう生徒、逆に先輩に会いに行く生徒、同学年の友達と喋る生徒。
未だにまだバラつきはあるものの、皆楽しそうだ。
……まぁ、これから新しいイベントがあるので、後には皆仲良くしてくれるだろう。
そんな笑顔が広がるグラウンド。
そんな光景を、俺はーーーー
「いやはや……家庭科室も、案外涼しいもんだねぇ……」
ーーーー家庭科室で眺めていた。
輪に入ることはない。
ただただ、皆の楽しそうな光景を上から眺めている。
……いや、別にサボってるわけじゃないぞ?
この行事は強制参加なんだ。生徒会役員である俺が率先してサボったら先生にドヤされてしまう。
これには深〜い訳があるんですよ。
えぇ……本当に深い理由がさ。
「いやぁ〜、流石にこの量は疲れたよ〜!」
そう言って、俺の隣にやって来る茶髪の美少女。
幼なじみでもある彼女は、バンダナにエプロンをした状態で、笑みを浮かべていた。
しかし額に薄らと汗をかいているとこから、あながち疲れたというのは嘘ではないらしい。
俺はポケットからハンカチを取り出し、麻耶ねぇの汗を拭ってやる。
「うんうん!ありがとうね望くん!」
「いいって事よ」
まぁ、麻耶ねぇが疲れるのも無理はない。
何せ俺も少し疲れてしまったのだから。
「でも、間に合ってよかったね〜」
「あぁ……正直、間に合うか分からなかったからなぁ〜」
俺は家庭科室に設置してあるキッチンを横目で見る。
そこには乱雑に残っている調理器具や調味料、ラップに食器が散らばっていた。
汚い。
でも、あとで片付けるから勘弁して欲しい。
……疲れたんですよ、本当に。
「まさか交流会で出す料理を注文し忘れるなんてなぁ……」
ざっと1000人以上を満たすための料理。
それは1000人前ーーーーまでとはいかないが、最低でも700人前はあるのではないだろうか?
その料理を、注文し忘れた。
本来は、食堂で働いているおばちゃん達を雇っている会社に発注するのだが……その、注目し忘れてしまったのだ。
いや、忘れたは語弊があるな。
個数を間違えてしまったのだ。
700人前の料理に対して、600人前。
誤差とか別に良くね?なんて思ったのだが、それでは食べれない生徒が出てくるかもしれない。
何せ、この行事は涼しい春の1日丸々を使う。
その為、お昼ご飯はこの行事で食べるしかないのだ。
だからこそ、料理の量を間違えると生徒達に申し訳ない。
発注忘れをしてしまった生徒会こそが責任を持つべき。
という訳でーーーー
「ざっと100人前……いっちょあがり……」
「望くん、それは作り終えた時に言うんじゃないの?」
100人前完成。
努力と技術とチームワークの勝利だね!
「先輩達、お疲れ様でした。もし良かったらこれ……飲んでください」
窓際でグラウンドを眺めていると、後ろから声をかけられる。
ボブな黒髪が特徴の美少女ーーーー新生徒会役員である大和後輩。
そんな彼女が、スポーツドリンクを持ってやって来た。
「ありがとね、千歳ちゃん〜!」
「助かるわー」
なんて気の利く子なんだろう?
丁度喉が乾いていたこのタイミングで持ってきてくれるなんてーーーー有能か?
「俺達のことはいいから、大和後輩も早く行けよ?何せ、お前達が主役の行事なんだからさ」
「い、いえっ!そう言う訳にはいきません!何せ私が間違えてしまったのですから!」
と言う一幕が楽しむ行事の外れで行われていたのだが。
何故、俺達は料理を作らなければいけなくなったのか?
それは数日前まで遡るーーーー
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